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社説・コラム

『潮流』 二つの国と公園

■論説委員 田原直樹

 入館を待つ長い行列が原爆資料館に延び、問題となった。被爆の実態に触れようとする人々に応えるため何とか解消したい。海外からの観光客を含む大勢が鎮魂の思いを胸に、きょうも平和記念公園を巡っている。

 そんな姿を見ながら、きのうは米ハワイ州にあるパールハーバー国立記念公園に思いをはせた。82年前、旧日本軍が真珠湾を攻撃して太平洋戦争が始まった。米側の死者は民間人を含め約2400人。きのう追悼式典があったが普段の来園者はどれくらいだろう。

 この夏、二つの公園の姉妹公園協定が結ばれたのには驚いた。有する意味が全く異なる地と思うからだ。被爆者はもちろん市民から怒りや非難が聞かれるのも当然だ。

 それでもやはり、「姉妹公園」への賛否は別として、機会があれば訪れてはどうだろう。10年ほど前に行った際、日本人は見かけなかった。

 撃沈された戦艦アリゾナからはずっと海底から油が浮き上がっていた。12月8日に広がった地獄絵図を伝える資料のほか対日戦勝利への道のりを示す展示が並ぶ。

 降伏文書調印の場となった退役戦艦ミズーリも湾内に係留されていた。疎開船・対馬丸を沈め、800人近い児童を死なせた潜水艦も。複雑な気持ちで言葉を失った。アリゾナ記念館には佐々木禎子さんの折り鶴もあり頭がくらくらするような戸惑いを覚えた。

 真珠湾を攻めた日本は原爆を落とされ、今は核の傘の下にある。核兵器禁止条約には背を向け、公園同士が協定を結ぶ。戦争と原爆をどう捉えさせようというのか。

 年末年始、ハワイへ向かう日本人観光客も多いはずだ。真珠湾の公園に姿はあるだろうか。

(2023年12月9日朝刊掲載)

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