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社説・コラム

社説 日ASEAN50年 非核と平和の絆強めよう

 日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の交流が始まって今年で50年を迎えた。

 日本は戦後処理の流れで、政府開発援助(ODA)によるインフラ整備や人材育成を支えてきた。加盟10カ国の経済成長は目覚ましい。お互いに信頼関係を築きながら、地域の発展につなげてきた意義は大きい。

 節目に合わせた日本と加盟国の特別首脳会議がきのう東京であり、文化交流や農業支援など、約130項目にわたる新たな計画をまとめたという。「対等なパートナー」として、関係を成熟させる契機としたい。

 ただ一連の首脳会議で焦点となったのは、安全保障を巡る協力の在り方だ。共同声明では「民主主義や法の支配、人権尊重の原則を堅持する世界を目指す」とした。東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国へのけん制だろう。

 ASEANは社会主義国もあれば王制国家もあり、民族も宗教も異なる国々の集まりだ。カンボジアなど親中派もいる。さまざまな違いを抱えた国々が手を携えるのは紛争を防ぐためにほかならない。

 日本政府は、同志国軍に防衛装備品を無償供与できる枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を今年新たに創設し、フィリピンやマレーシアに警戒監視用のドローンなどの供与を決めた。地域の緊張を高める事態を招かないか、心配になる。

 日本と東南アジアの関係を原点から思い返したい。日本は太平洋戦争中に戦火を広げて大きな爪痕を残した。1973年にASEANとの交流が始まった当初は激しい反日暴動も起きたという。

 77年、当時の福田赳夫首相が掲げた東南アジア外交の基本方針が転機になる。「福田ドクトリン」と呼ばれる3原則を打ち出した。日本は軍事大国にならないこと、心と心の触れ合う関係を構築すること、対等なパートナーになること―。戦後復興と経済成長で得た技術を各国に伝えることで信頼を勝ち取ってきた。

 ただ近年、相対的に日本の存在感が弱まっているのは明らかだ。中国の台頭である。インドネシアやタイでの鉄道網の整備や電気自動車(EV)の生産拠点の拡大などでじわじわ影響力を強める。

 日本は自動車やバイク、家電などに代わる新たな強みを見いださなければならない。ASEAN諸国では今、アニメやドラマ、グルメなど、日本の文化が人気を集め、高齢者福祉のノウハウも注目されているようだ。現地の人々の関心やニーズを捉え、期待や役割を見極める必要がある。

 被爆国・日本とASEANの関係を深める上で、非核の視点も忘れてはならない。

 ASEANの基本条約である東南アジア友好協力条約は武力不行使を原則に掲げる。97年には核兵器の保有と開発を禁じる東南アジア非核兵器地帯条約も発効した。シンガポールを除く9カ国は核兵器禁止条約に署名している。

 圏域で共有する理念は日本の平和憲法にも通じる。「核兵器のない世界」に向けた絆を一層強めていきたい。

(2023年12月18日朝刊掲載)

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