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ホロコースト 証言から学んで 映画「メンゲレと私」 地獄の日々 91歳克明に語る

 12歳でナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所に連行されたユダヤ人男性が体験を語る映画「メンゲレと私」。ホロコーストの記憶を映像で記録し続けてきたオーストリア人のクリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・バイゲンザマー監督の3作目。2人は「歴史の過ちを繰り返さないため次世代に証言を残し、学び続けるのは私たちの義務だ」と話す。

 証言するのは現在91歳のダニエル・ハノッホさん。リトアニアのゲットー(ユダヤ人隔離居住区)から複数の強制収容所を経て、終戦後にパレスチナへたどり着くまでの地獄の日々を克明に語る。人体実験で命をもてあそんだヨーゼフ・メンゲレ医師の下では、ガス室へ送られるユダヤ人を見届け、死体や遺品の運搬役を務めた。不条理にさらされ、カニバリズム(人肉食)も目撃した。

 カメラがダニエルさんの表情を追う映画は96分。家族と引き離され、生き抜くためにつらい判断や駆け引きを迫られた記憶をたどる。バイゲンザマー監督は「最も重要なのは時間だった。時間を共有し信頼を得たからこそ個人的な深い話を聞くことができた」と語る。

 クレーネス監督は「ホロコーストと広島の共通点は、理由なく命と人権を奪われたこと」と受け止める。「最後の目撃者もいずれ亡くなる。証言者がいなくなれば歴史も変わってしまう。今は体験者の話を聞くべきだ」

 イスラエルとパレスチナで続く戦火について、バイゲンザマー監督は「大半の国民は終結を願っている。ごく一部の権力者たちが戦争を続けている」と指摘。クレーネス監督は「私たちは新たな人道の崩壊を目の前で見ている。無実の被害者が多過ぎる。子どもを失った親の悲しみは双方とも同じはず」と語った。

 2人は今後、日本での取材も計画している。映画は横川シネマ(広島市西区)で30日から上映される。同シネマ☎082(231)1001。(渡辺敬子)

(2023年12月16日朝刊掲載)

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