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社説・コラム

社説 学術会議の法人化

独立性損なう懸念拭えぬ

 政府は、日本学術会議を国の特別機関とする今の制度を改め、切り離して法人化する方針を表明した。独立性を損ないかねない中身となっており、疑念が拭えない。

 方針は、学術会議の運営状況や業務の評価について、それぞれ外部有識者でつくる委員会を置き、チェックするとした。メンバーは担当大臣が任命する想定だ。また会員の選考は学術会議がするが、外部有識者の委員会にあらかじめ意見を聞くとした。

 これでは政府が介入できる仕組みそのものではないか。学術会議が懸念を示し、「完全に解消される必要がある」と表明したのは当然だろう。

 さらに政府は国費で賄っている財政基盤は外部資金の獲得など「多様化に努める」とした。特定団体からの資金を避け、学問の自由を守る責務を負う視点を欠く。組織の在りようによっては財政支援を減らすと言わんばかりだ。

 改めて方針で確認したように、学術会議は科学的な根拠に基づいて政府に助言・勧告を行う組織である。顔色をうかがった政策提言を促す仕組みを目指すなら、国民の利益を大きく損なう。政府は法案提出を考えているが、押し切っていい内容ではない。

 組織の見直し論はそもそも3年余り前、菅義偉前首相が会員候補6人の任命を拒否した事態が発端だった。6人は、安倍政権下の安全保障法制などに反対した経緯がある。首相の任命は形式的としてきた政府見解を唐突に覆した判断だが、理由の説明責任をいまだに果たしていない。

 現政権は、国の特別機関のままで会員選考に第三者を関与させる改正法案の提出を目指し、学術会議側の反発を受けて断念した。その後、有識者懇談会での議論に移す。しかし、法人化案は独立性や自由度が高まると言いつつも、肝心な論点は深めていない。独立性を損なった最たる任命拒否は議論せず、デメリットの検討も尽くしていない。しかも懇談会は非公開である。

 論点をすり替え、政府の介入を強めるための法人化ありきだと、言わざるを得ない。

 先の臨時国会で成立した改正国立大学法人法でも、一部の国立大に予算や経営計画の決定権を持つ合議体の創設を義務付けた。その委員の任命で文部科学相の承認を必要とした、その考えと通底してはいないか。政府の管理や統制を強めていく方向だ。

 併せて考えると、国の科学顧問という学術会議の役割を政府が理解しているとは思えない。データや研究を踏まえた政策提言であれば、時に政府にとって耳の痛い批判になるのは当然だ。そこにこそ、存在価値がある。

 先の大戦に科学者が協力した反省をもって設立した学術会議が、防衛研究助成制度への政府介入を批判したのは、むしろ健全だと言えよう。都合のいいことしか政府が聞かないようでは、民主主義の根幹を揺るがすことになる。

 気候変動や感染症、人工知能(AI)など、専門家の知見が欠かせない課題が押し寄せている。科学的な政策提言の意義を再認識すべきだ。

(2023年12月25日朝刊掲載)

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