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社説・コラム

社説 殺傷武器の輸出 平和主義ゆるがせにするな

 政府が防衛装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則と運用指針を改定した。殺傷能力のある武器の輸出に道を開く政策転換である。早速、米国企業のライセンス(許可)に基づき日本で生産する地対空誘導弾パトリオットの米国への提供を決めた。

 日本は先の大戦を教訓に憲法で平和主義を掲げ、国際紛争を助長しないよう武器輸出を厳しく制限してきた。平和国家の理念をゆるがせにする改定と言わざるを得ない。

 改定は、外国企業が開発し日本企業が特許料を支払って国内で製造する「ライセンス生産品」の提供拡大が大きな柱。従来は米国にだけ部品の輸出を認めていたが、完成品を含め、ライセンス元の国への輸出であればどこでも輸出可能になった。

 米国へのパトリオット提供を即決したのは、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの供与で、弾薬不足に陥っている米国への配慮からだろう。

 ライセンス元の国から第三国への輸出も可能だが、「戦闘が行われている国」への移転は認めない。輸出したパトリオットが直接、ウクライナへ渡ることはないと政府は説明するが、米国の在庫を補う形で間接的な支援につながる。紛争を助長しないと言い切れるだろうか。

 ルールの徹底に向け輸出先の国に適正な管理を要請するというが検証は難しく、第三国に流出する懸念は拭えまい。日本が輸出した武器で他国の人が殺傷されるようなことがあれば、人道・復興支援で積み上げてきた国際社会からの信頼を失いかねない。

 日本政府は1967年に「武器輸出三原則」を掲げて、事実上の輸出禁止政策を採ってきた。76年に当時の宮沢喜一外相は国会答弁で「わが国は武器の輸出をして金を稼ぐほど落ちぶれていない。もう少し高い理想を持った国であり続けるべきだ」と述べている。

 この理念はどこに行ったのか。今回の改定は、自民、公明両党の実務者による非公開協議で案を固め、政府が追認する形で閣議決定した。国会で野党を交えて議論するのが筋だろう。なし崩しと言われても仕方ない。

 そもそもなぜ改定が必要なのか。中国の軍備増強などを背景に、武器を周辺国に供与することで抑止力につなげる考えが自民党内にあり、ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかった。国内の防衛産業の強化を促す狙いもあるのだろう。しかし、ライセンス品の輸出ではただの「兵器工場」ではないか。

 政府はこれを突破口に武器輸出のさらなる拡大を進めるつもりだ。与党協議では、国際共同開発する装備品の第三国への輸出解禁が公明党の慎重姿勢で先送りとなった。

 政府は英国、イタリアと進める次期戦闘機の共同開発の協議が本格化する来年2月末までに結論を出すよう与党に求めたという。戦闘機は殺傷兵器そのもので、到底認められまい。ここで一歩立ち止まり、政府・与党には密室での協議を改め、国民の前で本質的な議論を求めたい。

(2023年12月26日朝刊掲載)

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