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社説・コラム

社説 核なき世界への道 逆風に負けず訴え続けよう

 新しい年を迎えた。核兵器のない世界に向け、希望の持てる一年にできるだろうか。被爆80年の節目は間近だが、現状は厳しい。核保有国の指導者たちによる言語道断の言動が逆風になっている。

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、核兵器使用の脅しに加え、抑止力と称して隣国ベラルーシに戦術核兵器を搬入し、核軍縮につながる包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回した。イスラエルの閣僚は、戦火を交えるパレスチナ自治区ガザへの核攻撃が「選択肢の一つ」と述べた。

 地球規模の視点に立って考えようとしない指導者が、核保有国に存在する。これでは核廃絶など夢物語だと思う人がいても不思議ではない。

共存はできない

 そんな状況だからこそ、逆風に負けず、核と人類は共存できないと広島と長崎から訴えを強めることが必要だ。もしまた核兵器が使われれば、核戦争に発展して人類を自滅させかねない。自国中心の考えに凝り固まって冷静な判断力を失った指導者に、理性を取り戻させねばならない。

 被爆地の先人の粘り強さを思い起こしたい。どんなに困難でも核なき世界を切り開こうと訴えてきた。米ソ冷戦の時代には、力こそ正義といわんばかりの主張に押され、感情論では国際政治は動かせないといった冷ややかな視線を浴びせられたこともあった。

禁止条約丸3年

 それでも、全人類を視野に入れた被爆地の訴えに耳を傾けて行動に移す人が次第に増え、世界を動かした。その象徴でもある核兵器禁止条約が発効して、今月22日で丸3年になる。批准した国は今、69カ国・地域に達している。

 昨年の第2回締約国会議には、初回を上回る94カ国・地域の政府代表らが出席した。ベルギーやノルウェーなど日本と同様に米国の「核の傘」の下にいる国からも4カ国がオブザーバー参加した。

 広島、長崎、ビキニ事件と3度も国民が原水爆の閃光(せんこう)を浴びた日本が、オブザーバー参加すらしていない。被爆国の名が泣いている。

 政府は、核保有国と廃絶を求める国との橋渡し役を務めると言い続けている。それなら、オブザーバー参加して議論を聞くのが筋だろう。

 核兵器関連で生じたヒバクシャの支援や、放射能汚染された環境の改善も、禁止条約は柱に据えている。広島や長崎の知見を蓄積している日本として協力できることは多いはずだ。いつまでもそっぽを向かず、まずはオブザーバー参加を決断すべきだ。

 禁止条約の輪は少しずつ広がっている。被爆地の訴えが世界の人々に浸透している証しでもある。耳を貸そうとしない政治家や行動を改めようとはしない指導者が確かに目につく。しかし、核兵器に固執しているのは少数派で、私たちと同様に核なき世界を求める人々の方が多数派である。忘れてはならない。

リスクは消えず

 さらに被爆地からの発信を強めるため、何ができるだろう。朗報がある。禁止条約の成立に尽力した国際非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のメリッサ・パーク事務局長が今月半ば、広島、長崎を初めて訪れる。オーストラリアの連邦議員や大臣を務め、昨年9月に事務局長になった。

 広島では、原爆資料館の見学や被爆者との対話、若者との交流を予定している。被爆地として、ICANをはじめとする市民社会や、禁止条約に集った国々との連携を深めるきっかけにしたい。

 核兵器が存在する限り使用されるリスクが付きまとう。人間や機械のミスもなくせない。人類の未来を守るには、なくすしかないのだ。節目となる年を前に、核廃絶を求める人たちや国々と手を結び、世界をさらに動かしたい。

(2024年1月4日朝刊掲載)

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