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社説・コラム

天風録 『ふつうの正月』 

 穏やかな元日を久しぶりに迎えられた。子どもや孫が帰省している家庭もあるだろう。一緒に年を越し、けさはこたつを囲んで雑煮を食べたり、年賀状を眺めたり。初売りのにぎわいも戻った。気を引き締めて店に立つ人もいるかもしれない▲ここ何年か新型コロナの流行が人の行き来を阻んできた。少し緩んでも、感染を広げないようにと恐る恐る行動した。昨年の「5類」移行で取り戻したいつもの正月。懐かしささえ覚える時間を、ゆっくり味わいたい▲只(ただ)の年またくるそれでよかりけり(星野麥丘人(ばくきゅうじん))。特別なイベントはなくていい。家族や親しい人と日を送り、普通の正月を迎えられることの何とありがたいことか。一方、自粛した歳月に別れを経験した人には、寂しさがひとしお募るに違いない▲年の暮れ、炊き出しに並ぶ人々を伝えるニュースを見た。暮らし向きは楽でなく、新年をことほぐ気にはなれまい。海の向こうでは、爆撃で大勢が命を落としている。涙も枯れたか、うつろな目で子どもが震えている▲年の始めに小さな幸せをかみしめながら、苦しんでいる人々を忘れず思う。ことしこそ、「ただの年」となって誰もが笑顔で生きられますように―。

(2024年1月1日朝刊掲載)

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