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社説・コラム

社説 2024年の願い 命と暮らし 守る視座こそ

 2024年はどんな年か。国内外ともに読みにくい、不透明な状況の中で新年を迎えた。

 何より世界の戦火が年末に激しさを増したことを憂う。侵略国ロシアとの戦闘が膠着(こうちゃく)状態だったウクライナは全土の都市が無人機やミサイルによる一斉爆撃を受けた。その反撃か、ロシア側の都市が砲撃された。

戦禍終わらせよ

 中東ではパレスチナ自治区ガザの戦闘が、近く4カ月目に入る。国際社会の非難にかかわらずイスラエル軍の攻撃がエスカレートし、未曽有の人道危機を招いている。190万人が避難を強いられて極度の食糧難に直面することに、心が痛む。

 世界の強国のエゴがむき出しになった戦禍を一日も早く終わらせることを指導者たちに強く求める。一方で、日本にいる私たちは連日、死者の数が伝えられても慣れっこになっていないか。強く自戒したい。世界で罪のない人たちの命が失われていくことを改めて憤り、平和を取り戻す重みをかみしめたい。

 むろん日本においても人の命と平穏な暮らしを守る視座は、決してゆるがせにできない。

 「2024年問題」を考えてみる。この4月からトラックやバス、タクシーの運転手、建設業で働く人たち、さらに医師について時間外労働の上限規制が適用される。ことし最大の懸案の一つと言っていい。

 大都市や地方を問わず、ただでさえ人手不足のところに影響が出ることは避けられまい。宅配も含めた物流、交通事業やインフラ整備といった現場では、対策が練られつつある。忘れたくないのが、対象となる人たちの過酷な労働環境を改善する改革である点だ。

 社会の中でいつしか労働負荷のしわ寄せを受けてきた職種への目配りと言える。上から降ってわいた迷惑な話ではないし、この問題への対応が、特定の人たちへの新たなしわ寄せを招いては元も子もない。消費者も含めて働くことの価値と意味を見つめ直しつつ、乗り切りたい。

信頼感揺らいだ

 「信は力なり」と言う。こうした痛みも伴う施策を進めるに当たり、欠かせないのが政治・行政への信頼感である。それが揺らぎ続けるのは残念だ。

 岸田政権を直撃する「政治とカネ」の問題だけではない。国民が信頼するに値する将来へのビジョンを明確にし、必要な負担や財源を包み隠さず示す―。経済、社会保障、外交・安全保障といった分野で中身以前の問題として、その政治の基本がおろそかになっていないか。

 為政者の保身や政治的思惑、利権の確保、さらに言えばプロパガンダによる恣意(しい)的な政策など論外である。国民生活の実情とかけ離れた、上から目線で数字ありきの机上の計画も、願い下げだ。物価高などで日々の生活を守るのに精いっぱいの人たちの思いにも寄り添い、必要なことは速やかに行う。その姿勢を明確にすべき年となろう。

 私たちの地域も、さまざまな意味で正念場を迎えよう。むろん明るい話題もある。一つは中枢都市としての広島の活性化である。さまざまな計画が並行して前に進む中で、2月開業の新サッカースタジアムは中心部の活性化につながるはずだ。

主体的な議論を

 半面、過疎にあえぐ地域は懸案が山積する。例えば山口県上関町で浮上した使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設計画であり、赤字ローカル線の存廃問題で鍵を握るJR芸備線の「再構築協議会」の始動である。またJR松江駅前の顔だった一畑百貨店が、あと2週間で閉店することも気がかりだ。

 こうした問題を考えるにも、国策ありきではなく生活者の目線に立ち、地に足を着けて一つ一つ解決策を出していくことが求められる。そのために必要なものは何か。私たちが地域の状況をよく知り、未来の在りようを主体的に論じる熱意だろう。

(2024年1月1日朝刊掲載)

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