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核廃絶 金融機関増す役割 関連企業への資金遮断 投融資禁止を議論

 核兵器廃絶に向けた新たなプレーヤーとして、金融機関の役割が増している。核兵器関連企業の資金を絶てる立場にあるためで、核兵器禁止条約の加盟国や非政府組織(NGO)が期待を寄せている。投資会社からは、民間の自発的な投融資禁止の取り組みだけでなく、条約に基づく国の関与を促す声も出始めた。(宮野史康)

 11月29日朝、米ニューヨーク。国連本部で開かれていた禁止条約の第2回締約国会議の関連行事として、世界金融の中心地で「ウォール街と禁止条約」と題した朝食会があった。金融関係者たち約40人がベーグルやベーコンをつまむ中、企画した米投資会社のカロエ・ライブル最高経営責任者(CEO)は「核廃絶へ金融業界には役割がある」と強調した。

 核兵器関連企業への投融資禁止は民間主導で浸透してきた。NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))などの2023年の報告書によると、米英を含む15カ国の金融機関55社が実践。政府が条約に背を向ける日本にも波及し、中国新聞社の11月の調査では、大手と中国地方の計15社が核兵器関連の企業や事業に投融資しない方針を定めていた。

 朝食会は、こうした潮流を受け、投融資や企業調査に関わる登壇者たちの議論が過熱。「核兵器使用の脅威は市場を不安定にさせている。核兵器は、社会と環境に有益な影響を及ぼすという私たちの目標に背く」「物議を醸す兵器や核兵器に企業が関わっているかに興味を持つ機関投資家が増えてきている」などと報告した。

 一方、締約国会議本体では、加盟国自体にも取り組みを促す提案が目立った。ICANは作業文書で、投融資は条約が禁止する核関連行為への援助に当たると指摘。加盟国の政府は、政府系ファンドや中央銀行に対し、核兵器の製造に関わる企業との関係を絶つよう指導すべきだと主張した。

 「責任ある投資」を掲げるイタリアの投資会社のマルコ・カルリッジ会長は30日の会議で読み上げた声明で、「国有企業が核兵器へのあらゆる援助をやめて模範を示すべきだ」と迫った。計1兆ドル超の資産を運用する93社の賛同を得ているといい、さらに企業を集めて、加盟国の本気度を問う構えだ。

被害者援助基金 議論前進へ 核禁条約会議 25年の設立姿勢維持

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議を受け、核被害者を援助する国際的な信託基金の議論が前進する見通しだ。推進国は2025年の第3回会議での設立を目指す姿勢を維持している。

 今月1日に閉幕した第2回会議の決定事項には、基金に関し「第3回会議で設立する検討を優先する」との文言が盛り込まれた。原資の提供元や配分方法などの論点が残っており、期限設定に慎重な国に配慮して明示を避けたが、第3回会議で設立する余地を残す書きぶりにしたという。

 推進側の外交官の一人は「やみくもに主張し、締約国を割る意味はない。全体での一致を図りながら協議を進める」と明かす。

 条約第6条は核被害者の援助と環境の修復について規定。この具体化は、核兵器保有国が条約に加わらない中で、条約の実効性を高める効果があるとされている。(宮野史康)

核兵器禁止条約の第2回締約国会議
 米ニューヨークの国連本部で11月27日~12月1日にあり、オブザーバー参加を含めて94カ国・地域が出席した。核抑止への固執は「核軍縮の進展を阻害している」と指摘し、核兵器の全廃を誓う政治宣言を採択した。核兵器が安全を脅かすという認識に立って核抑止論の克服に取り組むほか、核被害者を援助する信託基金の設立を進めると決めた。

(2023年12月31日朝刊掲載)

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