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社説・コラム

『想』 田中勝邦(たなかかつくに) 私とカナダ

 広島が原爆の惨禍から復興し始めた頃、祖母宛てにカナダの大叔母から小包が届いていました。当時としては珍しいチョコレートやコーヒーと一緒に家族のカラー写真も入っていました。当時小学生でローマ字を習い始めたばかりの私は、祖母に頼まれ礼状のエアメールの宛名書きをしたものです。これが、私のカナダに対する好奇心の始まりだったように思います。

 大叔母が住んでいたのはロッキー山脈に近い炭鉱の廃屋集落でした。太平洋戦争により、日系人が強制収容された場所の一つです。当時のカナダ政府は日系人が元の居住地に戻ることを禁止していたため、大叔母家族は戦争が終わっても、その後4年間はその村を離れることができませんでした。私は米国に留学していた1967年に初めて大叔母家族を訪ね、全財産を没収されてその村に強制収容された事実を知ったのです。

 こうした歴史を踏まえ、カナダ政府は88年、日系人の強制収容を国の責任と認めて謝罪し賠償金を支払いましたが、大叔母たちが失ったものと比べればわずかなものでした。そして先住民、日系人、マイノリティーの人権侵害に対する過去を反省し、71年に世界で初めて「多文化主義」を国是に定めました。民族や人種の多様性を尊重し、全ての人が平等に社会参加できる国づくりを目指してきたのです。

 現在カナダには200を超える民族が住み、毎年20万人以上の移民を受け入れています。公用語は英語とフランス語ですが、さまざまな言語が日常的に使われ、新聞・雑誌などは40カ国語以上で発行されています。世界ではロシアのウクライナ侵攻や、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻が続いています。だからこそ多様な民族が平和に共生し、国家を形成するカナダのモザイク社会が世界から注目されています。

 ロッキー山脈やナイアガラの滝、無数の湖、オーロラなど、カナダの大自然は人々の心を和ませ、夢を抱かせます。次の世代を担う若者たちにぜひとも訪れてもらいたい国の一つです。(広島カナダ協会理事)

(2023年12月29日朝刊セレクト掲載)

※田中勝邦氏の「邦」は正確にはの左が手

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