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在ブラジル被爆者訴訟 広島県、控訴取り下げ 

■記者 高橋清子、山中和久

 来日しないことを理由にブラジル在住の日本人男女(故人)の被爆者健康手帳の交付申請を却下した広島県の処分を違法とした昨年7月の広島地裁判決について、藤田雄山知事は16日、控訴を取り下げることを表明した。県の敗訴が確定する。

 同様の在外被爆者訴訟では6月、一審に敗訴した大阪府が控訴せず、長崎県が控訴を取り下げていた。

 記者会見した藤田雄山知事は「大阪や長崎で地裁判決が確定するなど情勢は大きく変化した。被爆県、移民県として被爆者援護の観点から迅速な解決を優先した」と政治判断であることを強調。「結果として原告に多大なご苦労をお掛けし、誠に申し訳なく思う」と述べた。

 広島地裁は昨年7月、「来日しないという理由だけで例外なく形式的に却下したのは裁量権の乱用で違法」として、県に却下処分の取り消し、国に計165万円の賠償を命じた。海外からの手帳申請をめぐる訴訟では原告側初の勝訴だった。

 県は、手帳交付は国に代わって自治体が行う法定受託事務で「知事に裁量権はない」などとして控訴。広島高裁で争っていた。

 被爆者健康手帳の取得をめぐっては、昨年12月に改正被爆者援護法が施行され、在外被爆者は来日しなくても取得が可能になった。

<解説>遅すぎる政治判断 大阪・長崎に追随の形

■記者 高橋清子

 在ブラジル被爆者訴訟で16日、広島県が発表した控訴の取り下げは、一審敗訴を受け入れた大阪府と長崎県の判断に「やむなく追随した」とみられても仕方がない。

 県が控訴していた最大の理由は、昨年7月の広島地裁判決が「申請却下は知事の裁量権の乱用」とした点。「法定受託事務なので国に言われた通りに対応した。違法と言うなら相手は国ではないのか」との異議である。加えて厚生労働省が控訴を強く指導した。

 しかし、昨年6月の改正被爆者援護法の成立で、被爆者健康手帳の交付申請を却下した理由である「来日要件」の廃止は決まっていた。原告の支援者団体からは「手続き上の理由だけで争うのか」との批判が相次いだ。

 記者会見で藤田雄山知事は「裁量権の乱用と言われ、白黒つけたかったが、これ以上意地を張っても仕方ないとの思いに至った」と明かした。その思いは大阪府、長崎県の判断が大きく影響してのものだろう。

 ここ数年、被爆者援護は、原爆症の認定基準の緩和など司法判断が主導する形で救済を広げる方向に進んでいる。被爆者援護の先頭に立つ使命を背負っているのが、被爆県だ。司法判断の流れを「追い風」ととらえ、もっと早く政治判断をするべきではなかったのか。残念でならない。

(2009年7月17日朝刊掲載)

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