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旧制広島一中など21校 被爆死遺族建立 学徒の観音像 移設へ 国が堤防工事計画 「安住の地で守りたい」

 旧制広島一中(現広島市中区の国泰寺高)の原爆死没者遺族会は、建立に中心的に携わった「被爆動員学徒慰霊慈母観音像」(中区大手町)を2024年度に市内の別の場所に移設する。高潮による浸水対策として国が堤防のかさ上げを計画する元安川東岸にあり、今後移動を求められる可能性があるため。「観音像を安住の地で守りたい」と移設費用の寄付を募っている。(編集委員・水川恭輔)

 観音像は平和大橋東詰めの南側にあり、高さ約2メートルの青銅製。被爆死した一中生徒の親が中心となって協力を呼びかけ、旧制中学や女学校計21校の遺族有志が1966年に建立した。石の台座には、犠牲になった学徒で当時分かった約4千人の名前を刻んだ銅板が保管されている。

 ただ、現地は国が2011年度に策定した太田川水系河川整備計画で元安川での堤防整備の対象区域となっている。国土交通省太田川河川事務所は「個別の碑などへの影響は今後工事の設計を決めるまで分からない。一時的な移動や移設を求めるケースが生じる可能性はある」とする。着工時期も未定という。

 一方、観音像を管理してきた広島一中原爆死没者遺族会は、計画への対応を検討。会に関わる遺族が高齢化しており、将来工事が迫った時点で国に像の移動を求められても、すぐに受け入れ場所を見つけるのは容易ではない点などを考え、移設を決めた。24年度中に像本体を移設する計画で、市内の寺院が受け入れ先の候補になっている。像の台座と中に保管している名前の銅板については、その後に検討するという。

 遺族会は国泰寺高の関係者や、建立に関わった他校の遺族に移設費用の寄付を募っている。秋田正洋会長(72)=南区=は「観音像には、原爆の犠牲になった子どもの御霊(みたま)を守り、平和を訴えてほしいという遺族たちの願いが込められている。安心して残せる場所へ移したい」と話す。同会☎082(264)1020。

太田川水系河川整備計画
 中国地方整備局が2011年に策定。広島市中心部の元安川、本川、天満川で高潮を想定した堤防のかさ上げを計画している。天満川から着工し、残る整備区間は元安川約2・8キロ、本川約1・4キロ、天満川約0・2キロ。平和記念公園の周辺を中心に、被爆死した生徒の動員場所に建立された学校の慰霊碑などが約30カ所にあり、防災と碑の保存の両立が課題になっている。かさ上げが終わった天満川東岸にあった旧制広島市立中の慰霊碑は17年、工事に伴い後身の基町高(中区)に移された。

(2024年1月10日朝刊掲載)

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