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社説・コラム

社説 ガザとウクライナ 人道危機解消一刻も早く

 パレスチナ自治区ガザとウクライナを覆う戦火は新年を迎えても収まる気配がない。両地で激しい戦闘が続き、多くの命が奪われている。人道危機を一刻も早く解消するため、和平・停戦への歩みを加速させなければならない。

 上川陽子外相が7日、ウクライナを初めて訪れ、ゼレンスキー大統領が提唱する和平案に貢献する考えを直接伝えた。通常国会前の貴重な外遊だが、中東に寄る予定はないようだ。2カ月前に訪れたとはいえ、人道危機はさらに深刻化している。改めてイスラエル、イスラム組織ハマスの双方に直接、停戦を呼びかける必要があるのではないか。

 能登半島地震や自民党派閥の裏金事件の対応に追われる岸田政権ではあるが、平和外交にも積極的に力を注いでもらいたい。

 ガザでイスラエル軍とハマスの戦闘が始まって7日で3カ月がたった。ガザ側の死者は2万3千人を超え、年明け後も連日100人以上が犠牲になる惨状に目を覆うばかりだ。戦闘の発端となったハマスによる奇襲と人質拉致は許されない。ただ、イスラエル軍の執拗(しつよう)な攻撃は度を越している。避難民が身を寄せる病院や学校を標的にしており、国際法違反は明白だ。

 イスラエル軍は、隣国レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラや、ヨルダン川西岸でのパレスチナ武装勢力との交戦も強める。イランなども巻き込み、中東一帯で緊張が広がることがあってはならない。

 イスラエルに対する国際社会の批判が高まる中、同国を支持する米バイデン政権も軍事作戦の縮小を求める。中東訪問中のブリンケン国務長官はきのう、イスラエルのネタニヤフ首相に民間人保護の強化を要請した。

 米国に遠慮してか、即時停戦の呼びかけに慎重だった日本政府もイスラエル、パレスチナ双方にチャンネルを持つ立場を生かし、繰り返し働きかけるべきだ。

 ウクライナの戦火も、厳しい情勢は変わりない。ロシアの侵攻開始から2月で丸2年になる。昨年6月に始まったウクライナの反転攻勢の成果は乏しく、戦況は膠着(こうちゃく)状態。昨年末にはロシアが全土一斉攻撃を展開した。プーチン大統領が、3月の大統領選を前に戦果を求めて攻勢に出る可能性も指摘される。

 とはいえ、戦闘の長期化で互いに疲弊しているのは確かだろう。武器供与などでウクライナを後押ししてきた米国や欧州連合(EU)の「支援疲れ」も顕著になりつつある。ロシアの非人道的な行動は絶対に認められぬが、和平交渉の可能性を探る段階にあるのではないか。

 日本政府はウクライナ支援に便乗する形で、武器輸出に道を開く防衛装備移転三原則の見直しを進めてきた。しかし、本来果たすべきは停戦に向けた外交努力だろう。2月には東京で「日ウクライナ経済復興推進会議」を開くという。壊滅的な被害を受けた社会インフラの再建に向け、日本の技術を生かした支援策を官民で協議する場だ。その前に戦火を止める必要がある。

(2024年1月10日朝刊掲載)

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