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広島城天守 木造復元へ 議論本格化 市有識者会議 25年度まで課題整理

費用多額 市民の理解必要

 広島市は2024年、老朽化した広島城天守(中区)の木造復元に向けて本格的に議論を進める。25年度までかけて、有識者の検討会議で復元年代や範囲などの課題を整理する。多額の費用が見込まれるだけに、実現へは財源と市民の理解が欠かせない。(野平慧一)

 市が復元を目指す初代の木造天守は1592年ごろに完成し、5重5階で脇に二つの小天守を有した。天守は1931年に国宝に指定。45年の原爆で倒壊し、三浦正幸・広島大名誉教授(日本建築史)は「もし残っていれば城郭の建築史上、最も古く大変価値のある建造物」と残念がる。

 市は23年11月に、三浦名誉教授を座長に建築や歴史の専門家たち7人でつくる検討会議を設置。年4回ペースで会合を開き、復元する年代や範囲、概算費、工法などを協議し、技術的な課題を検証することにしている。

 現在の天守は58年再建の3代目で鉄筋造り。市の20年の調査で震度6~7程度の地震で「倒壊または崩壊する危険性が高い」と診断された。有識者の懇談会が21年3月、耐震化と比べた上で、伝統的な工法で築く方が歴史的価値を高められるとして、木造化を市へ提案。松井一実市長が同月、木造復元を目指す考えを表明した。

 課題や石垣の保存の在り方などを検討するため、市は22年に有識者でつくる「史跡広島城保存活用会議」を発足。24年度内にまとめる広島城の保存活用計画への助言を求め、これまでに5回開いた。新たな検討会議では、天守の解体と復元に特化して議論を深める構えだ。

 全国でも、戦後に再建された天守の多くが改修時期を迎え、木造復元を目指す動きがある。名古屋城は総事業費約500億円で計画。名古屋市は「知名度を生かし、事業費は市民の寄付や入場料収入を返済財源とした市債発行で賄える」とする。ただ、エレベーター設置のバリアフリー対策などで議論があり、事業は進んでいない。

 広島市は20年時点の費用の試算で、広島城天守の耐震化は最大9億8千万円、木造化は約86億円かかるとはじいた。別に三の丸では絵びょうぶなどを展示する歴史館を26年10月にオープンする予定もあり、「原爆の惨禍からの復興のシンボル」として天守の価値を高め、観光誘客の底上げを狙う。

 新たな「築城」ともいえる木造復元。市はどう市民の理解を得ていくのか―。市文化振興課は、「市民に興味や関心を持ってもらえるよう、催しなどを通じて歴史文化の発信に取り組みたい」としている。現在の天守は25年度後半で閉館する。

広島城
 戦国武将の毛利輝元が1589年に築城を開始。天守、二つの小天守、三重の堀があり、江戸期の大半は浅野家が城主を務めた。初代天守が原爆で倒壊後、1951年に、広島国体に先立つ体育文化博覧会に合わせ、イベント業者が木造の2代目天守を建設。国体後に解体されたが、53年に城跡が国史跡となって機運が高まり、広島市が58年に現在の3代目天守を鉄筋で再建した。二の丸の表御門なども復元している。別名の「鯉城(りじょう)」は広島東洋カープの由来ともされる。

(2024年1月12日朝刊掲載)

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