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社説・コラム

社説 台湾総統選 与党の頼氏勝利 民意尊重する新時代築け

 おととい投開票された台湾総統選で、中国との統一を明確に拒否する与党、民主進歩党候補の頼清徳副総統が初当選した。対中融和路線の最大野党、国民党の侯友宜・新北市長と、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長を下した。

 1996年に総統の直接選挙が実現して以降、同一政党が3期連続で政権を担うのは初めてになる。頼氏は当選後「外部からの介入を排除し、世界に民主的体制の尊さを示した」と胸を張った。中国の圧力に屈せず、現状維持を望む多くの国民の支持を集めたことは疑いない。

 中国は民進党政権を明確な台湾独立勢力として敵視し、対話も拒否してきた。今後、経済、軍事面での圧力を一層強めることが懸念される。だが、まずは示された民意を尊重すべきだ。その上で頼氏にも国際情勢をにらんだ熟度の高い政権運営を望みたい。

 民進党は長らく1党独裁だった国民党の批判を集める対抗勢力から、政権政党に脱皮し、今回はその地歩をさらに強固なものにしたと言える。ただ、頼氏の得票率は40%に過ぎない。侯、柯両氏の野党候補一本化が実現していれば結果は違ったかもしれない。

 今回の選挙戦では長期政権が陥りがちな政治腐敗が指摘された。政権交代可能な健全な政治体制を望む声に応えられず、総統選と同時実施の立法委員(国会議員)選では過半数を維持できなかった。頼氏が難しい議会運営を強いられるのは避けられず、謙虚さも求められるはずだ。

 国際社会における台湾の立ち位置は微妙である。対岸の大国は「一つの中国」原則を貫き、米国でさえその立場を否定していない。今回の結果を受け、バイデン米大統領が台湾の「独立を支持しない」と発言したのも、中国に配慮したからだろう。今秋の大統領選の結果次第では、米国の台湾政策が変化することも考えられる。

 とはいえ、中国が選挙結果を「民進党は主流の民意を代表できない」と反発するのはいかがなものか。習近平国家主席は「祖国統一は歴史的必然だ」と強調し、軍事演習の実施や貿易優遇措置の一部停止などの圧力を民進党政権に加えてきた。あからさまな圧力が台湾側の反発を招き、今回の結果につながったことを反省すべきだ。

 「天然独」と呼ばれる若い世代は自らを「台湾人」と認識し「中国人」と考える人は圧倒的少数になっている。若者たちは「台湾は既に独立した状態なのだから独立をあえて求める必要はない」という現実的な視点に立っている。

 頼氏も「現状を維持し、対等な立場を前提に交流や対話をする」と中国に呼びかけている。中国も圧力ではなく、台湾の人たちの民意に寄り添う対応が必要だ。

 台湾は日本に極めて友好的で、能登半島地震に11億円を超す義援金が集まっているそうだ。頼氏自身も親日家として知られ、日本外交へ寄せる期待は大きい。その思いに応えるためにも、日本は中台の平和的関係構築に力を尽くさなくてはならない。

(2024年1月15日朝刊掲載)

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