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社説・コラム

社説 辺野古追加着工 沖縄と誠実に向き合え

 沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設で、政府がこれまで実施していなかった埋め立て予定海域での工事に着手した。

 軟弱地盤が広がる大浦湾側の地盤改良工事に必要な設計変更の承認を県が拒んだ。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設を進めるため、政府は昨年末、県に代わり承認する「代執行」に踏み切り、準備を進めていた。

 政府の方針に逆らえば知事の権限を剝脱する―。その上で工事が強行された。一つの県の問題ではない。国策の下に地方自治がないがしろにされたと受け止めるべきだ。

 地方自治法に基づく代執行は、国と地方は「対等」との理念を反映させるための1999年の改正で定められた。あくまで異例の事態に備えるためである。

 福岡高裁那覇支部は昨年12月、代執行に向けた訴訟の判決で、県の承認拒否は普天間の危険性の除去を妨げ、「社会公共の利益」を害すると指摘。県民投票で示された埋め立て反対の民意こそ「公益」として考慮されるべきだとする県の主張を退けた。

 設計変更を巡る一連の訴訟で、司法は軟弱地盤のリスクに踏み込まず、手続き論を盾に政府の姿勢を追認した。あしき先例づくりに加担しているかのようだった。

 地元の声を顧みず、県が求める対話にも応じないまま着工したことは、憲法が保障し、民主主義の基盤といわれる地方自治の理念に反する。

 地元軽視の姿勢は、不意打ちのように着工した点からもうかがえる。

 沖縄防衛局が2013年に当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事から埋め立て承認を受けた際の留意事項は、着工前に設計などについて県と協議するよう定めていた。ところが今回、協議を待たず政府は海への石材投下を始めた。林芳正官房長官は海上に資材置き場を設置するための作業で「協議の対象外」と説明したが、不信感を強めるだけではないか。

 日米両政府の普天間返還合意から28年。安全保障環境は大きく変化した。中国、北朝鮮のミサイル能力が向上する中、大型基地の必要性が薄らぎ、分散化を基本戦略とする流れが米軍にある。

 それらを踏まえた現実的な代替案を、本来なら埋め立てが始まる前に議論する必要があった。まだ遅くない。米側に協議を申し入れるべきだ。

 さらに言えば、新基地は供用開始までに12年を要する。難工事で再度の設計変更を迫られ、今回のような訴訟になれば、政府が「30年代半ば以降」という普天間の返還時期は一層不透明となる。

 岸田文雄首相は「移設が唯一の解決策」と繰り返すだけで沖縄への思いが見えない。防衛政策の面からも沖縄と信頼関係を築くことが必要だ。

 那覇支部は県の訴えを退けた半面、判決の付言で「対話を重ねることを通じて抜本解決を図ることが望ましい」とも指摘した。政府は県と誠実に向き合い、対話に応じるべきだ。地方と国が対立したときの解決方法はどうあるべきかも、考え直すときである。

(2024年1月13日朝刊掲載)

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