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社説・コラム

[歩く 聞く 考える] 広島をおもしろくする 「共に創る」で化学反応を 広島県立叡啓大教授 早田吉伸さん

 既存の枠を超え、新たな事業や試みにチャレンジしている広島のリーダーたちの集まり「SIGN(サイン)」が昨年11月から動き始めた。声かけ人は広島県立叡啓(えいけい)大ソーシャルシステムデザイン学部教授の早田吉伸さん(53)。若い世代の流出が課題となっている広島の街をもっとおもしろくするには、NPOや企業、行政などが「共に創る」仕掛けが必要という。SIGNの意図を聞いた。(編集委員・平井敦子、写真・高橋洋史)

  ―SIGNの意味を教えてください。
 「広島の未来を拓(ひら)くソーシャルイノベーターたち」を意味する英語の頭文字です。

  ―約60人のメンバーはどんな人たちですか。
 湯来観光地域づくり公社(広島市佐伯区)の佐藤亮太さん、移住促進などに取り組むフウド(江田島市)の後藤峻さん、複合施設ミナガルテン(広島市佐伯区)の谷口千春さん、乳業メーカー砂谷の久保宏輔さん、ひろしまジン大学の平尾順平さん、ピース・カルチャー・ビレッジ(PCV)の住岡健太さん…。社会の課題と向き合い「起業」している人たちです。東京から広島に来て5年で知り合った方々で、このメンバーを通じてさらに輪が広がっています。私を含め、すべて個人としての参加です。

  ―何を目指しているのですか。
 メンバーはそれぞれ、時代の変容、広島の課題と向き合い、ユニークな取り組みをしています。その人たちがつながりを持ち、関心が重なるテーマで一緒に動けば、化学変化が生じ、もっと大きなうねりをつくれるのではないでしょうか。

 個々の関心事を出し合い、浮かび上がったのが「人材育成」「食」「平和」「教育」「コミュニティー拠点」の五つのテーマです。それをみんなで社会的インパクトを生むプロジェクトに育てたい。広島でソーシャルイノベーション、つまり新たな価値をつくる社会変革の波を起こしたいのです。

  ―なぜ、変革が必要なのでしょう。他の都道府県と比べて、広島は停滞しているように見えますか。
 就職を機に広島を出て行く若者が多いのはなぜなのか、しっかり向き合うべきでしょう。2022年の総務省の人口移動報告で、広島県の転出超過は47都道府県で最多でした。2年連続で20代が中心です。理由には、新しい価値を創造し、未来をつくると感じられる仕事や取り組みが足りないことがあると思います。

  ―どんな仕事や取り組みがが求められていますか。
 右肩上がりの時代が終わり、正解モデルのない複雑な時代になりました。価値観が多様化し、「8割の人が買う」商品がイメージしにくくなっています。既存のビジネスが揺らぎ、この会社に就職したら安心、というのもなくなりました。

 どこに所属するかより、自分の成長や未来につながる経験、社会の役に立っている実感が得られる仕事を、若い世代は求めています。それらを生み出すには既存の枠組みにとらわれない、しなやかな発想や挑戦が必要です。そのためのアクセルがもう少し、広島にあるべきです。

  ―挑戦にブレーキがかかる空気を感じますか。
 どうでしょうか。広島は資源が豊かな地域です。自然に恵まれ、自動車などの産業もあり、地域スポーツがある。恵まれているため「これでいいじゃん」となりやすい面があるかもしれません。

 一方で、新たな価値や変革を生むには、尖(とが)ったものをみんなでおもしろがって、よってたかってやってみることが必要です。

  ―SIGNは「尖り」を育てる役割がありそうですね。
 そうですね。「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め」ということわざをご存じでしょうか。先陣を切って前に進もうとしているメンバーたちとともに「より遠く」を目指すプロジェクトをまず体験する。そして、みんなでその先を考えられたら、と思うとわくわくします。

そうだ・よしのぶ
 佐賀市生まれ。熊本大法学部卒、慶応大大学院博士課程修了。博士(システムデザイン・マネジメント学)。NECで自治体のIT整備を担当後、政府に出向してデジタル戦略構築に参画した。その傍ら、東京大公共政策大学院客員研究員、慶応大大学院非常勤講師としてソーシャルシステムデザインを研究。2021年4月に開学した叡啓大の設立準備に携わり、同年7月から現職。

(2024年1月17日朝刊掲載)

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