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連載・特集

地方紙年頭社説を読む 元日の震災 「羅針盤」問い直す

敦賀開業 掲載取りやめ 北國新聞

未来変える種探し 促す 秋田魁新報

地球生存へ 声上げる時 北海道新聞

核使用ちらつかせ 批判 愛媛新聞

 元日の夕べに大地震に見舞われた今年、3日付の新聞は、元日付紙面とは天と地のような開きを見せた。年頭社説も例外ではない。内外情勢を見渡し、張った論陣は新年早々、震災で問い直された。「羅針盤」に、油断や死角はなかったか―。新年紙面を交換した地方紙各紙の年頭社説を読んでみる。(論説委員・石丸賢)

 能登半島地震の発生から半月余り。この間の地方紙各紙を広げると、3日付紙面こそ今年の1ページ目に思えてくる。

 石川県の地元紙である北國(ほっこく)新聞が象徴だろう。今年3月に北陸新幹線金沢―敦賀間の開業を控え、元日付紙面には隅々まで明るさがみなぎっている。社説も、タイトルに【新幹線敦賀開業(上)】を掲げ、見出しも〈北陸三県に「背骨」が通る〉と意気揚々だった。

 それが大地震で暗転する。3日付紙面は特別紙面に。ページ数は、ラッピング広告を含めて48ページあった元日付から20ページに減った。震災がテーマの3日付社説の片隅に、【新幹線敦賀開業(下)】の掲載取りやめを伝える「おことわり」が見える。

 ジャーナリズムの両輪は報道と論評だと、元通信社記者で創価大教授だった故新井直之さんがかつて論じていた。

 〈いま伝えなければならないことを、いま、伝える。いま言わなければならないことを、いま、言う〉。前段が報道、後段が論評である。

 いまは各紙とも被災地の実態に目を凝らし、耳を澄ます、時々刻々の報道が先行している。今回の震災を踏まえ、いずれ論評の「羅針盤」を点検する必要もあるだろう。そんな土台である年頭社説に話を戻す。

 今年は、大型の企画報道を1面に据えた紙面が目に付く。年頭社説を企画テーマにつなげた工夫もあり、各紙の問題意識が随所にうかがえる。

 一つは人口減少との向き合い方である。第2次安倍政権が看板政策「地方創生」を掲げてから10年になる。目標とした人口減少の克服も東京一極集中の是正も、かすんで見える。

 「全国ワーストのペースで人口が減り続ける」秋田県の秋田魁(さきがけ)新報は、「地方創生 失われた10年とこれから」と題する企画連載を元日付1面に持ってきた。社説も〈縮んでなお地域持続を〉との見出しで、未来を変える種探しを促す。宮崎日日新聞も、1面で企画連載「縮小社会 宮崎の未来図」の第1部「止まらない流出と自然減」を始めた。社説も【人口減少と過疎化の危機感】のタイトル、〈地域の持続性を高めよう〉との見出し。2030年までに100万人を切る推計の県人口に警鐘を鳴らす。

 信濃毎日新聞の社説タイトルは【人口減時代の自治】。自治の網をほどき直し、「みんなの公共財(コモン)」づくりを説く。交流サイト(SNS)を介し、住民を交えて「地域の足」再編に挑む山村も取材。〈小勢(こぜい)なりに「この指とまれ」〉の見出しは現地の声という。いわく、「小勢なりにやっていけるんじゃないかな。いろいろな人が集まって、この指とまれができると思います」。人口が30年先も全国最少という鳥取県の日本海新聞も【縮む地域の未来像】のタイトルで、〈明日への道筋はきっとある〉と見出しを掲げた。  気候変動も、いばらの道が続く大問題である。

 北海道新聞は、前日の大みそかに始めた企画連載「気候異変」を元日付1面で展開。第1部「昆布だしがなくなる日」では、「地球沸騰の時代」(グテレス国連事務総長)の海を見つめる。社説は【「解」を探して①】〈地球生存へ声上げる時だ〉。たとえ難題であっても、変革を望む声のうねりが解を導いていくと背中を押す。

 〈贈り物でなく預かり物〉との見出しが目を引くのは、中日・東京新聞の社説。アメリカ先住民の言い伝え「地球は先祖からの贈り物ではない。子孫からの預かり物だ」にちなむ。尋常ならぬ高低温、洪水と干ばつ、山火事の多発…。病んだ地球を未来世代に押し付ける、今の世代に非を鳴らす。

 上毛新聞の社説タイトルは【市民科学者の願い】。地元の前橋市出身で脱原発を訴え続けた物理学者、高木仁三郎さん(1938~2000年)の人生をたどり、気候変動やエネルギー問題を論じている。

 ウクライナや中東の戦火がやまない。「これだけは手放すまい」と誰もが再認識したのは、命ではないか。本紙社説も、〈命と暮らし守る視座こそ〉との見出しを選んだ。

 熊本日日新聞の社説は、〈いのちはのちのいのちへ〉と不思議な見出し。父を水俣病に奪われた漁師、緒方正人さんの戯れ歌の一節らしい。「アウシュビッツの被害者の子孫たちが集団殺害の一方の当事者」となった中東。加害、被害が入れ替わる暴力の連鎖を見た緒方さんの言葉を引く。「38億年の地球の生命史の中に置けば、時代を超え命をつなぐ働きそのものが、命ではないか」。命は、後の命へ。広島や長崎で聞く被爆者の思いと重なる。

 愛媛新聞の社説【核の脅威に向き合う】は、ロシアのプーチン大統領やイスラエル閣僚が核の使用をちらつかせたことに触れ、「これこそ持てる側、守られた側の依拠する抑止論の行き着く先」と批判。原爆を「人間的悲惨」(中国新聞の金井利博・元論説主幹)として知る側に立つ―。そんな思いが〈「被爆者の同志」として想像力を〉の見出しにこもる。

 いまが岐路だと踏んだ「一点突破」型の社説もある。

 神戸新聞は【少数者とひらく未来】のタイトル、〈誰もが自分らしくあるために〉の見出しを掲げ、性的少数者の権利に光を当てた。変わろうとする司法に比べ、動きの鈍い政治にも触れた上で、地域や自分の中にもある「壁」についてもっと知ろう―と呼びかける。

 沖縄タイムスは代執行による基地建設を取り上げ、〈理不尽に抗し その先へ〉の見出し。「自衛権」の名の下、市民の殺害が止まらぬウクライナやガザ…。突き付けられた問いは「規範を失った国家の軍事暴力からいかにして子どもや民間人を守っていくか」。要塞(ようさい)化の進む沖縄の行く手と重ね、「『人権としての平和』という視点からの取り組みが必要だ」と。

 今年開かれるパリ五輪・パラリンピックについては茨城新聞と栃木県の下野(しもつけ)新聞が触れていた。

(2024年1月18日朝刊掲載)

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