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社説・コラム

『想』 大野英人(おおのひでと) 〝広響〟を再び世界に!

 「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」

 この原爆慰霊碑の言葉を、今ほど世界に向かって強く言いたい時が戦後にあったでしょうか。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・パレスチナ紛争、大規模な殺りくを毎日テレビのニュースで見ていると、精神の安定を失いそうになる自分がいます。何の罪もない市民が次々と犠牲になっています。人間は、どこまで残酷になれるのでしょうか。

 原爆の被害にあった広島の人々は、原爆を落とした米国を断罪するのではなく、原爆を落とす要因となった「戦争」そのものを「過ち」ととらえ、再び繰り返さないと誓いました。過去の悲しみに耐え、憎しみを乗り越えなければ真の世界平和が実現できないと知った広島の人々に、心から敬意を表します。

 広島交響楽団は、私が事務局長を務めていた1990年~2005年の16年間にオーストリアのウィーン、チェコのプラハ、フランスのノルマンディー地方、ロシアのサンクトペテルブルク、韓国で公演しました。私自身の公演に懸ける思いとしていつも「慰霊碑の言葉」がありました。

 フランスでは主催者が被爆ポスターをロビーに展示してくれました。韓国では「広響平和コンサート」という名前を韓国側が自ら付けてくれました。各国で「HIROSHIMA」という場所に心を寄せ、広響の演奏を聴いてくれました。中には、演奏に涙する人もいて、音楽が言語を超えて人々の心に飛び込んでいくのを感じました。

 しかしながら、広響は2005年の韓国公演以降、団員全員での海外公演をしていません。音楽で世界の人々に広島の心を伝える「平和の使者」としての役割を広響は担っています。広響の演奏が世界の人々の心の中に平和の種をまく機会になるのです。広島の皆さん、広響を世界に送り出してください。それが世界平和を築く力になると信じています。 (広島交響楽団前事務局長、関西フィルハーモニー管弦楽団常務理事・楽団長)

(2024年1月18日朝刊セレクト掲載)

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