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社説・コラム

社説 核禁条約3年と日本 「核なき世界」の入り口に

 核兵器禁止条約がきょう発効から3年を迎えた。人間として核兵器を禁じる―。核の悲惨を身をもって訴えた被爆者の証言に基づく立脚点に賛同は広がり、批准は70カ国・地域に達した。

 日本政府は依然、条約に背を向けたままだ。「核なき世界」を掲げながら米国の「核の傘」の下に身を置き、その依存度を強めている。矛盾を抱える被爆国は国際社会で、核廃絶論議における存在感や影響力の低下が懸念される。

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核使用の脅しに加え、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回。パレスチナ自治区ガザの戦闘でイスラエルの閣僚は核攻撃が「選択肢の一つ」と述べた。今、核リスクが冷戦以降で最も高まっている。

 片や、昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は核軍縮に関する「広島ビジョン」で、核には核で対抗する核抑止力の必要性を認めてしまった。核兵器を持てる国、守られる国と、地球上からなくしたい国・市民との溝は深まるばかりだ。

 そもそも核兵器が存在する限り、さまざまなリスクがつきまとう。敵対する国の指導者の暴走に加え、偶発的な事故やミスが人類を危機に陥れる引き金を引きかねない。自国中心の考えを改めさせる手だてが今こそ必要だ。

 こうした中、昨年あった第2回締約国会議は政治宣言で核抑止論を否定し、「軍縮を阻害している」と指摘した。核保有国と依存国に脱却を迫るため、核兵器の非人道性はどんなものか、科学的証拠に基づく報告書を示すと決めた。核実験などの被害者救済や環境回復に向けた国際的な信託基金の設立を目指す。

 多様な論点からの取り組みに敬意を表したい。広島・長崎が蓄積した知見やノウハウを生かせる局面でもある。しかしながら会議が設置した科学諮問グループの委員に、長崎の被爆者で医師の朝長万左男氏が落選した。日本政府の姿勢と無関係ではなかろう。

 条約発効3年に合わせ、広島・長崎を訪問した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のメリッサ・パーク事務局長は、日本政府への期待と警告を示した。

 広島での講演でパーク氏は岸田文雄首相が「核なき世界を目指す上での出口」と唱える条約の位置づけを否定。「入り口でなくてはならない」と強調した。廃絶への道筋は厳しさを増すが、よりどころとしての条約の意義はより重たくなったといえよう。

 その上で「核の傘と決別し、条約に加わる責務がある」と迫り、少なくとも2025年の第3回締約国会議へオブザーバー参加するよう求めた。被爆者と、条約の下に集う国々や若者たちをこれ以上、失望させてはならない。

 政府は非保有国や廃絶を目指す市民社会との関係を構築し直し、核「傘下国」から条約「参加国」へかじを切るときだ。被爆地は核被害を受けた他国の人々との連携や被爆の実態の発信をさらに進め、政府への圧力を強めたい。

(2024年1月22日朝刊掲載)

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