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連載・特集

核兵器禁止条約発効3年 現在地と課題 断じた「違法」 増す重み 

被爆者の声反映・女性参画…議論深めたい

 核兵器を持つ、造る、買う、譲ることなどを全面的に禁じた核兵器禁止条約は、発効から22日で3年を迎えた。この間、第1回締約国会議を2022年6月に、第2回は昨年11~12月に開催。条文の履行や、核軍縮促進のための方策が議論されている。その中で、具体的な課題も見え始めた。被爆地が関心を持つべき項目を中心に、条約の「現在地」と課題を見る。(小林可奈)

 15日にアフリカのサントメ・プリンシペが加わり、批准は70カ国・地域に達した。

 締約国は、締約国会議の数日間以外も協議を活発に行っている。条約の実現に大きな役割を果たし17年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))」など、国際非政府組織(NGO)も議論に深く関わっている。

 しかし核兵器を持つ9カ国のほか、米国の「核の傘」の下にいる日本などが背を向ける現状に変化はない。昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも、合意文書に「核兵器禁止条約」の一言はなかった。

科学諮問グループ

 核兵器がもたらす非人道性とは、いかなるものか―。説得力のある科学的証拠を示し、核抑止に頼る各国の安全保障政策に影響を与えることを目指すのが「科学諮問グループ」だ。第1回締約国会議で、専門家による諮問機関の設置が決められた。

 そこで、締約国が推薦する物理学者ら15人が委員に任命された。核兵器が使われるリスクの現状や、使用された場合の被害について報告書にまとめた。第2回会議では、その役割がさらに重視される傾向が見えた。

 被爆者医療の知見が生きる分野でもあるが、長崎の被爆者、朝長万左男さん(80)は任命から漏れた。被爆者医療の現場と研究に長く携わる医師で、締約国の間でも知られた存在だ。条約に対する日本政府の姿勢が影響したとの見方がある。

持たざる側の救済

 核兵器に関する他の条約が、核を持つ側の都合に沿う取り決めであるのに対し、核兵器禁止条約は持たざる側の権利擁護と救済を目指す。柱となる画期的な条文が6条「被害者援助と環境修復」と7条「国際協力と援助」だ。主に2千回以上行われた核実験や、将来の核被害を想定する。

 第1回会議では、援助に必要な「先立つもの」を集める信託基金の設置検討などを決めた。旧ソ連の核実験場があったカザフスタン、米国と英国が核実験をしたキリバスの仕切りで、被爆者や研究者らを交えて協議。25年3月に予定する第3回締約国会議まで議論をさらに詰めるという。

 6、7条には被爆国日本の市民や研究者も特に注目してきた。計2回の締約国会議の前に、被害者の声を重視するよう求める提言をまとめた。提言づくりに関わった明星大(東京)の竹峰誠一郎教授(国際社会論)は「被害当事者の多くは、核保有国を含め条約に入っていない国の住民。条約の運用に、その声が十分生かされるか疑問もある」と提言に込めた課題を指摘する。

ジェンダー条項

 核兵器禁止条約は「ジェンダー(社会的性差)」の視点から核兵器の問題に言及した初の条約だ。前文は、核軍縮を進める上での女性参画の重要性を規定。放射線被曝(ひばく)などが「女性と少女に過大な影響を与える」とし、6条はジェンダーに配慮した被害者援助の必要性をうたう。第2回会議までに3回の非公式協議を実施し、報告書を出した。

 国連軍縮研究所によると、第1回会議に出席した各国代表団の女性は3割にとどまる。第2回会議では「単に人数を増やしたり、女性を画一的に『被害者』と捉えたりする以上の行動が求められる」とくぎを刺す声も上がった。

これから

 この3年間で、世界の核状況は混迷を深めている。ロシア大統領に続き、イスラエルでも閣僚が「核使用」の選択肢に言及。保有国も日本も、核依存を強めている。だからこそ、「核兵器は違法」と断じた条約は存在の重みをさらに増す。被爆地からは、日本政府に条約参加を求め続けるとともに、締約国、そして核被害を受けた地の人々との連携をさらに強めなければならない。

核兵器禁止条約
 前文に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記する。オーストリアなど核兵器を持たない国がNGOなどと連携して成立を主導。国連で開かれた交渉会議で2017年7月、非保有122カ国・地域の賛成で採択された。20年10月に批准が50カ国目に達し、21年1月22日に発効した。

(2024年1月22日朝刊掲載)

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