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社説・コラム

『潮流』 広島らしい夜景

■論説委員 松本大典

 夜の平和記念公園(広島市中区)を、久しぶりにじっくり歩いた。

 石畳の道のスポットライトにいざなわれ、原爆慰霊碑へ。下からの明かりに照らされた「過ちは繰返しませぬから」の碑文の向こうに平和の灯(ともしび)が揺れ、ライトアップされた原爆ドームが浮かぶ。

 毎日通う職場のすぐそばだが、光が織りなす祈りの空間に改めて引き込まれた。

 仕事帰りに立ち寄ったのは先日、市の景観シンポジウムでパネル討論の進行役を任されたからだ。「ひろしまの夜景を創る」と題し、照明デザイナーの近田玲子さん、面出薫さん、松井一実市長が意見を交わした。

 平和記念公園の夜の景観も、2人の専門家には、あらの方が目に付いたようだ。慰霊碑とドームを結ぶ軸線で照明の色のばらつきをなくしたり、邪魔な光を抑えたりすれば、「もっと良くなる」という。

 地域の個性を際立たせるアイデアも相次いで寄せられた。広島城や縮景園といった歴史的なスポットを光の連なりで結ぶルートづくり、自然光や陰影を生かす照明デザインなどである。

 中でも面出さんが挙げたキーワードに深くうなずいた。「過剰でない平和な夜景」。柔らかく温かみのある雰囲気と、低エネルギーで地球に優しい光こそ広島にはふさわしい―との示唆である。

 市は1989年に「ひろしま観光ライトアップ基本計画」をつくったが、継続的な取り組みにつながっていない。シンポを機に仕切り直しといきたい。発光ダイオード(LED)の進化で照明の可能性は広がる。広島らしい夜景をうまく演出できれば、課題となっている訪日客らの宿泊増にも光が差すはずだ。

(2024年1月20日朝刊掲載)

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