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社説・コラム

『潮流』 和菓子の名

■編集委員 道面雅量

 例年、ひろしま男子駅伝の前日・当日に、広島グリーンアリーナ(広島市中区)が主会場となる島根県の物産展「しまねふるさとフェア」を楽しみにしている。今年は4年ぶりの通常開催。松江市のブースには銘菓「若草(わかくさ)」も並んでいて、心躍った。

 求肥(ぎゅうひ)を彩るそぼろの明るい緑。春の和菓子だ。松江藩の松平家7代藩主、大名茶人の松平治郷(はるさと)(不昧(ふまい))が好み、名前は治郷の詠んだ歌に由来するという。

 優美な名の和菓子には「淡雪(あわゆき)」(三次市では「泡雪」)も思い浮かぶ。落雁(らくがん)、金鍔(きんつば)、最中(もなか)…。フランスにもラングドシャ(猫の舌)などがあるが、さまざまな菓子にこれほど凝った名を付けるのは日本文化のユニークな一面だろう。

 この日本文化論、実は「受け売り」である。教えてくれたのは、在籍した大学の客員教授だった評論家の加藤周一さん(1919~2008年)。四季の情感を繊細に表現する文化の特性を講義で説いた。加藤さんについては、23日の本紙文化面「この人の〝反核〟」でも紹介した。

 ナショナリズムに警戒を怠らない人でもあった。日本文化を西洋文化に対比し「雑種文化」だとした論考は、日本文化を観念的に純粋化しようとする国家主義的運動への批判である。戦時を生きた体験がこもる。

 私見だが、和菓子の他に日本特有の命名作法を感じる分野は、市販薬。即効性を「スグピタール」といった名でうたう例が妙に多い。

 片仮名表記で西洋風でもあり、日本語の残響で効能も伝わる。おっ、これはもしかしたら「雑種文化」かも。勇んで加藤先生に尋ねたとしたら、「いや、ただのダジャレ好きでしょう」と真顔で一蹴されただろう。

(2024年1月25日朝刊掲載)

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