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記憶継承担う世代 「広島の今」描く 演劇カンパニー「マレビトの会」 初の映画作品

横川シネマで10日から 映像作家4人のオムニバス

 核の脅威を題材にした作品を発表してきた長崎県出身の松田正隆が代表を務める演劇カンパニー「マレビトの会」が初めて映画づくりに取り組んだ。30~40代の映像作家4人が挑んだオムニバス映画「広島を上演する」で、被爆都市として語られる「大文字の歴史」ではなく、こぼれ落ちる日常の時間を描くことで「広島の今」を捉えようと試みた。2月10日から横川シネマ(広島市西区)で上映される。(渡辺敬子)

 複数の劇作家で戯曲を執筆した演劇「長崎を上演する」(2013~16年)、「福島を上演する」(16~18年)に続くプロジェクト。新型コロナウイルス禍を踏まえて、23年9~12月に広島市を訪れた。それぞれの取材を経て脚本や構成を作り、短編を撮った。

 広島市西区出身の三宅一平は制作担当として、広島での聞き取りや撮影のコーディネート役を担った。「決して被爆の実情を正面から描いた作品ではない。記憶の継承に立ち向かう世代が、演劇や映像に何ができるのかを考えながら、必死にもがいて作り上げた映画」と解説する。

 三間旭浩監督「しるしのない窓へ」は、基町アパートそばの川辺で友人と詩を共作する女性の幻想的な物語。山田咲監督「ヒロエさんと広島を上演する」は、胎内被爆した女性が自身と母親の戦後の人生を記憶をたどりながら証言する。草野なつか監督「夢の涯てまで」は、原民喜の詩を織り交ぜ、大切な存在の喪失に向き合う女性を描く。遠藤幹大監督「それがどこであっても」は、演劇で使う環境音を求めて懸命にさまよう男性の姿が印象的だ。

 製作総指揮を務めた松田は、黒木和雄監督の映画「美しい夏キリシマ」の脚本を書き、戯曲「紙屋悦子の青春」は映画化もされた。マレビトの会は09、10年に広島、長崎をテーマにした演劇を上演した。今後は「広島を上演する」と題した演劇作品も計画する。三宅は「経験していない出来事に対し、どう創造力を働かせて芸術で表現し、継承することができるか。若い世代の新しい模索を感じてほしい」と話す。

(2024年1月27日朝刊掲載)

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