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「身の上話」通じ日韓の歴史写す 出雲出身 藤本巧さんが写真集 広島で被爆 盧さんの記録

 出雲市出身の写真家、藤本巧さん(74)=奈良県生駒市=が、新たな写真集「ヒロシマ―盧長壽さんの身世打鈴(シンセタリョン)―」を出版した。広島市で被爆し、戦後、韓国・金泉(キム・チョン)に帰郷した盧長壽(ノ・ジャンス)さんに焦点を当て、その人生を58枚の白黒写真とともに紹介している。

 「身世打鈴」とは「身の上話」に近い意味の韓国語。藤本さんは1970年に慶尚北道金泉で知人に紹介された盧さんを、91年に再び訪ねた。そこで広島での被爆者と知り〝身の上話〟を聞いた。

 写真集では、14年生まれの盧さんが歩んだ人生を、故郷金泉、兄の後を追って渡った広島、闇船で帰郷する際に寄った壱岐(長崎県)に分けて、写真と文で紹介している。

 「故郷」では70年、91年、2014年と、藤本さんが定点撮影してきた金泉の町並みや住民の素朴な生活風景を紹介。「広島」では、被爆建物の原爆ドーム(広島市中区)、旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)、原爆の高熱で変形したガラス瓶などを、光量を調節した技法で象徴的な画像に仕上げている。

 毎年、原爆の日前日の8月5日に営まれる韓国人原爆犠牲者慰霊祭や、同6日のとうろう流しの様子を写した写真も載せている。

 藤本さんは、日韓の歴史の現場をテーマに1970年、撮影を開始。2020年には日本統治時代の朝鮮半島で漁業に従事した日本人の移住先などを取り上げた写真集「寡黙な空間」で土門拳賞を受賞した。「盧さんの話も日韓史の一こまとして記録に残さないといけないと思い、一冊にまとめた」と話している。

 A4判、97ページ。1800円。工房草土社☎0743(61)5615。(伊東雅之)

(2024年2月1日朝刊掲載)

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