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社説・コラム

『潮流』 ゴジラという破壊者

■特別論説委員 宮崎智三

 ゴジラが誕生して今年で70年。続編が相次いで製作され、国際的にも知られるようになった。

 昨年封切られた最新作「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」の評価は高い。第1作を尊重した話の運びや破壊者ゴジラが暴れ回る迫力を考えれば納得できる。面白い。

 気になる点もあった。ゴジラの倒し方だ。

 第1作は液体中の酸素を破壊する物質「オキシジェン・デストロイヤー」が使われた。そんな物は今も存在しないが、ゴジラ自体が空想なのだから許容範囲だろう。

 科学的発想が色濃く、何より、たとえゴジラでも倒せると思えたし、実際に倒した。

 今回出てきたのはざっと、こんな方法だ。海面と深い海の底とで極端に違う水圧の差を利用して倒す―。「これでは倒せまい」と映画を見ていて思ってしまった。

 分かりやすいのは確かだ。飛行機や船を駆使したゴジラとの戦いを存分に描くため、うってつけでもあろう。迫力満点の場面になっていた。

 ではなぜ、気になったか。製作者を批判したいのではない。新型コロナ禍で可視化された、科学そのものや科学的発想を軽んじる社会風潮が表れていると感じたからだ。

 第1作の5年前、国内は、日本人初のノーベル賞に沸いた。物理学賞の湯川秀樹さんである。当時は、科学に対する信頼があり、後の科学発展にもつながっていく。

 今はどうだろう。ここ20年余り、日本の科学の基盤は弱体化し続けている。それにつれ、私たちは科学への信頼や科学者への尊敬の念を失いつつあるのではないか。

 破壊したのはゴジラではなく、政府の失政だ。そこを改めない限り、再生の道は見えてこない。

(2024年2月3日朝刊掲載)

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