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社説・コラム

『書評』 郷土の本 子ども時代に体験 被爆後の広島描く

 児童文学・子どもの生活文化研究家の梓加依さん(79)=兵庫県宝塚市=が、被爆後の広島を子どもの目線から描いた「広島の追憶」を書き下ろした。広島で子ども時代を過ごした著者が実体験を基に紡いだ物語だ。

 主人公は由美子。体が弱くて運動は苦手だが絵が上手な6年生。被爆から10年余りたった広島で、運動が得意な和也、成績優秀な進、歌がうまい裕と仲良く学校生活を送っていた。ところが平穏な日々に原爆の影が忍び寄る。被爆後寝たり起きたりしていた和也の父が亡くなり、和也を励ましていた裕も入院、白血病で逝ってしまう。さらに進の義母、担任教師と次々悲報が…。「なんで、こんとにいっぱい、人が死ぬん」。広島の人々を苦しめ続ける原爆の非人道性が由美子らの率直な言葉で伝えられる。

 小2から高3までを被爆の傷痕が残る広島で過ごした梓さん。放射線の影響とみられる病や差別に苦しむ人々を目の当たりにしてきた。見聞きしたあまりにもつらい実情は書けなかったという。

 ウクライナやパレスチナで戦火が絶えず核使用さえ懸念される今、「過去のかわいそうな人たちの昔話で終わらせず、現在の自分の問題として受け止めてもらいたい」とノンフィクションではなくあえて物語にした。著者の切なる願いに満ちている。鹿砦(ろくさい)社、1650円。(森田裕美)

(2024年2月4日朝刊掲載)

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