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社説・コラム

天風録 『被爆者とAI』

 等身大の女性がいすに座り、広島弁で語る大画面。本人が目の前にいるようだ。NHK広島が開発した人工知能(AI)による「被爆証言応答装置」を試す機会があった。14歳で被爆した梶本淑子さんが全面協力している▲映像の中で、身ぶりとともに質問に口が動く。8月6日夜はどう過ごしたかと尋ねると「近くの土手で一晩過ごしたんですが真っ赤に燃えてました。広島の空が…」。キーワードをAIが分析し、5日かけて撮った900以上の答えから瞬時に選ぶ▲完成度の高さに驚いた。爆心地から2・3キロで大けがを負いながら、助かった梶本さん。少々抵抗感もあったが、生の証言が残せるならと納得したそうだ▲被爆80年を前に語り手は減るばかり。もう時代の流れだろう。広島市もデジタル技術を生かした継承の検討を予算案に入れた。気になるのは生成AIを使うかどうか。膨大な情報を自在に選び、答えを出すのが売りだ▲被爆体験は一人ずつの生きざまを背負う。生成AIが都合のいい部分を集め、一つの体験を創作しても意味はない。AI梶本さんは難しい質問に「分かりません」と正直に返す。新技術の力は借りても継承への答えは簡単ではない。

(2024年2月8日朝刊掲載)

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