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社説・コラム

社説 [地域の視点から] 広島市予算案 核廃絶へ発信力高めねば

 広島市の松井一実市長がきのう、2024年度の当初予算案を発表した。一般会計の総額は6845億4300万円で過去最大になる。

 歳出は、新サッカースタジアム整備が一段落したものの、JR広島駅前一帯の再開発や物価高など経済情勢への対策が膨らんだ。

 財政健全化を念頭に置いているのだろう。予算編成には苦労もうかがえ、規模の割に地味なことも理解はできる。

 しかし、広島市は中四国の中枢都市であると同時に、核兵器廃絶を世界に訴える国際平和都市である。昨年、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれ、来年は被爆80年の節目を迎える。

 それを踏まえれば、予算案はサミットの貴重な経験を、被爆80年の記念事業に反映させる良い機会のはずだ。その観点からすれば、今回の内容はいささか物足りない。

 被爆80年に向けた市の事業は現時点で53ある。このうち原爆資料館への入館チケット予約・販売システム導入や、西平和大橋の歩道橋整備など8事業は24年度に着手する。被爆橋の一つで、戦時中に金属製の欄干などが供出されて石造りの本体だけになった京橋の復元などにも順次取り組むという。

 「来年に向け、平和を願う市民社会の総意が世界中の為政者に届くような環境づくりを目指す」という松井市長の説明に異論はない。8事業に充てる予算は1億3600万円。歳出総額から見れば微々たる額だが、核廃絶という目標の実現には息の長い努力の継続が欠かせない。

 ただ、80年事業が10年前の70年事業と、事業数や予算規模がよく似ているのはなぜだろう。京橋の復元も、70年事業で取り組んだ猿猴橋の復元と重なって見える。

 80年事業に、サミットの遺産をどう反映させたのだろうか。松井市長は今回の予算案審議を通じて議会などに十分に説明してもらいたい。

 もちろん事業には新しい試みも見受けられる。人工知能(AI)や仮想現実(VR)を活用した、被爆体験の継承もその一つだ。80年には間に合わないかもしれないが、被爆者の高齢化を考えれば、有力な継承手段になりそうだ。

 原爆の子の像のモデルとなった佐々木禎子さんの生涯を描く米国発のミュージカルの広島公演や、広島、長崎両市の被爆遺構を巡る平和学習と観光を兼ねたツアーなど、若者向けの試みも成功を期待したい。

 忘れてならないのは、被爆者たち市民との連携だろう。漫画「はだしのゲン」の一場面を平和教材から外したことや、米パールハーバー国立記念公園と平和記念公園との姉妹公園協定を巡って、被爆者の反発を招く事態も起きている。

 予算案は広島市が核廃絶の思いを具現化するための基礎である。平和都市に生きる被爆者や市民の思いをくみながら事業を進めてもらいたい。

(2024年2月8日朝刊掲載)

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