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社説・コラム

社説 [地域の視点から] 広島県予算案 停滞感の打破 どう実現

 広島県の湯崎英彦知事がきのう、2024年度の当初予算案を発表した。新型コロナウイルス禍がもたらした暮らしや働き方の変化と、昨年、広島市であった先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の効果を的確に捉え、「選ばれる地域」を目指すという。

 一般会計は総額1兆957億円。2年連続のマイナス編成ながら、6年連続で1兆円台の規模である。ただ県独自の事業は小粒で物足りなさが否めない。社会保障費の増加や西日本豪雨の復旧事業で財政運営が厳しさを増す中、苦心のやりくりがうかがえる。

 予算資料で県は「本県を含めた社会全体に停滞感が生じている」との認識を示している。最大の要因は人口減少だろう。総務省がまとめた23年人口移動報告で若者を中心とする転出超過が1万人を超え、3年連続で都道府県ワーストとなった。

 早急な対策が求められる。予算案の発表に合わせ県は部局横断的なプロジェクトチームを4月に新設し、喫緊の課題として若者の転出超過の要因分析や対策の練り直しに取り組む方針を明らかにした。まずは3千万円をかけ、企業の採用や学生の進学・就職、移住の実態などに関するアンケートや聞き取りなど幅広い調査を進めるという。

 全国の自治体の約半数が消滅する可能性がある―。増田寛也元総務相が座長を務めた日本創成会議が、地方の人口減少に警鐘を鳴らしたのは10年前である。

 東京一極集中の是正が叫ばれ、広島県もこれまで首都圏からの移住呼び込みや、若者世代の定住対策に力を入れてきたのは確かだろう。

 湯崎知事は「個別の政策の成果は一定に出ているのに、全体として若者流出に歯止めがかからない」と手詰まり感をにじませた。コロナ禍で起きた地方回帰の流れもつかめず、後手に回った感は否めない。この際、徹底的に背景を探り、「選ばれる地域」になるよう手を尽くしてほしい。

 県が対策の力点に置くのがデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進だ。予算案では産業振興、教育、医療福祉、観光、中山間地域の環境整備など多分野にわたり計90億円を振り分けた。

 デジタルの積極活用は、湯崎知事が一貫して力を入れる施策だ。21年の知事選では、デジタル技術で新たな産業を興すと訴えた。

 県内経済を支えてきた製造業に代わり、若者の雇用を生み出したり投資を呼び込んだりする産業分野や成長企業を育てられるか、「成果主義」を身上とする知事の手腕が問われよう。支援先の企業がいかに成長したかなど、これまでの事業の効果を検証する必要もある。

 G7サミットで高まった広島への注目度を持続させ、人を呼び込むには市町との一層の連携も欠かせまい。とりわけ、人口流出を食い止める「ダム機能」が期待される広島市と戦略を共有すべきだ。

(2024年2月9日朝刊掲載)

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