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[いかさミュージアム散歩] 仁科会館 2ヵ月かけ物理新公式

 仁科芳雄博士(1890~1951年)の業績で最も有名なものは「クライン・仁科の公式」です。この公式は、光が電子にぶつかった時にどのように跳ね返るのかを表し、現在もエックス線天文学などで使われます。専門用語で正確に表現すると、「自由電子による光子の弾性散乱断面積」です。

 公式は仁科博士がデンマークに留学していた最後の年の28年に、クラインとともに導かれました。この式を導くには相対論と量子力学が必要です。相対論はアインシュタインが05年に作った理論、量子力学はハイゼンベルグが25年に完成させた理論で、これらは現代物理学の二大理論です。つまり、この時期は物理学が飛躍的に発展しており、その時に仁科博士は量子革命の中心地だったデンマークに留学していたのです。

 28年は、ディラックが量子力学を相対論と組み合わせた理論を提唱した直後でまだ大きな困難があるように見えました。仁科博士とクラインは誰よりも早くディラックの理論を実際の物理現象に適用し、実は困難と思われた点まで取り入れた計算で正しい答えが導かれる事を示しました。

 現在では量子力学と相対論は「場の量子論」という理論にまとまり、大学院修士1年で学びます。場の量子論を用いるとクライン・仁科の公式は半日で導けるので、私はこの式を学んだ当初、たった半日の計算で教科書に名前が残るとは、うらやましいという感想を抱いたものです。ですが、当時は不完全な理論を用いて試行錯誤で計算を進めるしかなく、2人で集中して2カ月もかかったという逸話が残っています。(公益財団法人科学振興仁科財団理事・事務局長 田主裕一朗)

 <メモ>住所は里庄町浜中892の1。入場無料。午前9時~午後5時に開館し、月曜日と第3日曜休館。仁科芳雄博士の生家は仁科会館から徒歩10分で入場無料。日曜のみ開き、午前10時~午後4時。☎0865(64)4888。http://www.kagaku.nishina.town.satosho.okayama.jp/

(2024年2月18日朝刊掲載)

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