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社説・コラム

『潮流』 消えゆくハト派

■論説主幹 山中和久

 戦後憲法の平和主義を重視する「ハト派」は、このまま政界から消えていくのだろうか。

 そう強く感じたのは、自民党岸田派「宏池会」の解散表明よりも、その後にあった通常国会の施政方針演説を聞いた時だった。岸田文雄首相は憲法改正について、9月の自民党総裁任期までの実現を目指すと強調した。

 そもそも改憲への強い信念があるわけでない。憲法の何をどう変えたいのか、首相から明確に語られたこともない。

 しかも、裏金国会である。野党の激しい追及は予想できたはずだ。改憲発議のハードルの高さを考えれば、実現し得ないことを口にしている。保守層をつなぎとめたいアピールにほかなるまい。

 党政調会長だった2017年の衆院代表質問では、当時の安倍晋三首相に「改正のための改正であってはならない」とくぎを刺していた。それが首相の座を目指すうち、改憲の旗を振っていた。

 宏池会の解散を突然打ち出したのは、派閥批判をかわす狙いだろう。だが、この伝統派閥が培ってきた理念が政権運営の邪魔になってきたのではないかと勘繰りたくもなる。防衛費を倍増させ、戦闘機まで輸出しようとしていることと無関係には思えない。

 憲法は日本という体に合うよう運用されてきた―。かつて宏池会を率いた宮沢喜一元首相が著書「21世紀への委任状」につづっていた。

 先人が時に激論を交わし、時に慎重な検討を加え、憲法解釈を積み重ねてきたことを指すのだろう。安倍政権以降、勇ましい声の下でないがしろにされてきたものだ。底流にあった不戦の誓いやバランス感覚まで消えてしまえば、国の針路を見失うのではないか。

(2024年2月17日朝刊掲載)

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