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社説・コラム

社説 ナワリヌイ氏急死 疑念晴らす責任 ロシアに

 あまりにも不可解な急死と言うほかない。

 ロシア当局が、反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が収監先の刑務所で死亡したと明らかにした。

 反プーチン政権の象徴的な存在である。でっち上げの罪を着せられて長期刑を受け、3年間も拷問的な扱いを受けていたという。にもかかわらず、獄中から来月の大統領選でプーチン氏以外への投票を呼びかけていた。

 当局は突然死と説明している。だが、まだ47歳の若さ。亡くなる前日には元気な姿も確認されている。身体にあざがあったという情報もある。家族への遺体の引き渡しを引き延ばす当局の対応をみてもプーチン政権が政敵を殺害したという疑念は拭えない。

 ナワリヌイ氏は2000年代以降、プーチン政権の腐敗を指摘する動画を作り、ネット配信してきた。側近らによる国営企業絡みの横領疑惑や、プーチン氏が大邸宅をひそかに所有している疑惑などを暴いた。国民の支持を集める一方、プーチン氏には目障りな存在だった。

 20年8月に移動中の飛行機内で毒殺されかけ、ドイツで治療を受けて一命を取り留めた。回復後に帰国した母国で逮捕、収監され、23年末には劣悪な環境にある北極圏の刑務所に移されていた。

 ナワリヌイ氏に限らず、ロシアではプーチン政権を批判する人物が相次いで命を落としている。

 チェチェンの人権侵害を告発した女性記者や野党指導者は射殺された。政府とマフィアの関係を暴露した元露情報機関員は亡命先の英国で放射性物質を盛られて死亡した。民間軍事会社ワグネルの創設者も搭乗機墜落で死んだ。

 プーチン氏が権力を維持するため、ひそかに異論を封じる企てを進めたとしか思えない。ウクライナ侵攻後は特に言論統制を強めているという。国民の多くは息苦しさを感じているに違いない。

 ナワリヌイ氏の死は民主勢力には大打撃だが、妻のユリア氏は夫の遺志を継ぐと表明した。ロシアの人たちの民主化を求める取り組みが今後も続くことを切に願う。

 プーチン政権がナワリヌイ氏追悼に集まった数百人を拘束したことは許し難い。フィリピンのコラソン・アキノ氏が暗殺された夫の遺志を継ぎ、民衆の力でマルコス独裁政権を倒した歴史の教訓を思い返すべきだろう。

 欧州連合(EU)は外相会合を開き、「独立した透明性のある国際的な調査」に応じるようロシアに求めた。バイデン米大統領もロシアへの追加制裁の可能性に言及した。

 真相解明を迫るのはもちろんだが、日本を含めた国際社会は、民主化を望む市民をロシア政府が弾圧しないよう、結束して監視することを求めたい。

 ナワリヌイ氏は23年発表の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した映画「ナワリヌイ」で自身が殺された際の「遺言」を残している。「諦めてはいけない」というそのメッセージは、われわれにも託されている。

(2024年2月21日朝刊掲載)

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