×

連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第1部 呉基地の今 <3> 潜水艦

過半数配備の重要拠点

有事懸念 反撃能力装備へ

 桟橋沿いにずらりと並ぶ漆黒の船体。海上自衛隊呉基地に近い呉市昭和町の公園「アレイからすこじま」は潜水艦を間近で見学できる国内でも数少ないスポットだ。休日には観光客でにぎわう。

 海自が国内に配備する潜水艦は22隻。そのうち12隻が呉基地を母港とする。国内では他に横須賀基地(神奈川県)に10隻ある。

乗組員の原点に
 2023年度版の防衛白書によると、潜水艦の保有数は米国が約70隻で、日本の周辺では中国が57隻、韓国が19隻などとなっている。1桁台の国も多く、呉基地はこれを上回る規模だ。

 昨春には最新鋭潜水艦はくげい(3千トン)が呉に配備された。国内最大級のたいげい型潜水艦の2番艦。ステルス性能が向上し、リチウムイオン電池で潜航可能時間が延びた。20年に新たに誕生した女性乗組員の居住空間も備える。

 潜水艦の乗組員を養成する唯一の潜水艦教育訓練隊がある呉基地。元潜水艦隊司令官の小林正男さん(74)=横浜市=は「呉は潜水艦乗りの古里で原点。みんなここで学んで、それぞれの配置に就く」と話す。

警戒体制を増強
 防衛省は10年に方針を示して以降、潜水艦の数を順次増やし22年に22隻体制とした。中国の海洋進出や台湾有事への懸念などで潜水艦が担う任務は拡大しており、警戒監視の体制を増強する狙いがある。

 さらに潜水艦を巡る環境は変わりつつある。国は防衛費について23年度から5年間で総額約43兆円と大幅に増額。他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)に使う長射程ミサイルなどの整備を加速させる方針だ。岸田文雄首相は反撃能力を「必要最小限度の防衛措置だ」と説明。抑止力として不可欠だとの認識を強調し、発動対象は個別具体的に判断するとしている。

 柱に据えるのが敵の射程圏外から攻撃可能な「スタンド・オフ防衛能力」だ。防衛省は国産の長射程ミサイル開発や米国製巡航ミサイル「トマホーク」導入を決定。反撃手段を失う可能性を低くするため、発射拠点の多様化も図る。その一つが相手に見つかりにくい潜水艦だ。

 潜水艦への垂直ミサイル発射システム(VLS)搭載を計画。従来の魚雷発射管を使った水平発射の長射程ミサイルの開発に着手し、28年度ごろからの実装を見込んでいる。呉基地の潜水艦への配備も予想される。潜水艦への装備は、抑止力を高める目的もある。

 小林さんは「今後は無人潜水艇の本格的な運用なども想定され、潜水艦を巡る環境が変わるのは間違いない」とみている。

(2024年2月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ