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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第1部 呉基地の今 <5> 災害派遣

「本来任務」国民に浸透

大地震備え 地元とも連携

 能登半島地震の発生から一夜明けた先月2日、輸送艦おおすみ(8900トン)が母港とする海上自衛隊呉基地(呉市)を出港した。甚大な被害を受けた石川県の被災地支援に向かうためだ。同4日には同県輪島市沖に到着。被災地に届ける重機5台とトラックなどを積んだ水陸両用のエアクッション艇「LCAC(エルキャック)」2隻が、おおすみを離れ、同市の大川浜に上陸した。

能登 輸送艦の姿

 おおすみの甲板からは陸上自衛隊のヘリコプターが飛び立ち、物資を運搬。道路や岸壁が壊れ、救助や物資の運搬を阻む中、自衛隊は装備を生かして海と空からの支援に従事した。

 海自が保有するおおすみ型輸送艦は3隻。いずれも呉基地を母港にし、掃海隊群の第1輸送隊に所属する。トラックや戦車を搭載でき、隊員約300人を運べる。有事には島しょ部防衛での活用を見込む。

 自衛隊は同2日、災害派遣に向けて陸海空3部隊による統合任務部隊(JTF)を1万人規模で編成。海上からの支援は舞鶴地方総監が海上災害派遣任務部隊指揮官として、艦艇や航空機を運用し任務に当たった。

 和歌山県から宮崎県までを警備区域に持つ呉地方隊にとって、今後想定される南海トラフ巨大地震の対応は重要な任務になる。トップの呉地方総監が担う役割は大きい。

 自衛隊の災害派遣は前身の警察予備隊時代に始まった。度重なる災害で練度は高まった。転換点になったのが、1995年の阪神・淡路大震災だ。日本政治史が専門の流通科学大(神戸市)の村上友章准教授は「自衛隊の活動は国民の信頼感を高めたが、一方で初動の遅れによる批判も招いた」と話す。

24時間態勢 確立

 自衛隊法に基づき、自衛隊は都道府県知事などの要請があれば部隊を派遣できるが、緊急事態には要請を待たずに派遣することも可能だ。阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、自衛隊は自主派遣の基準を明確化し、装備品の充実を図った。陸海空で24時間隊員を派遣できる態勢も確立。自治体との連携強化を図る。呉基地も毎年、呉市や市消防局、企業、自治会連合会などとの訓練に参加している。

 村上准教授は「災害派遣が自衛隊の本来任務であるという認識が次第に浸透した」と指摘。東日本大震災や熊本地震などの支援に生かされていったとする。ただ、能登半島地震については「最善を尽くしていると感じるが、これまでほど迅速かつ大規模な展開ができなかったのではないか。被災地の声を受け止めた検証が必要になる」と指摘している。

(2024年2月25日朝刊掲載)

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