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社説・コラム

天風録 『被災者に寄り添う』

 取材の帰り際、記者会見場に呼び戻された。待ち構える男性が出した名刺は〈宮内庁侍従職〉。「陛下から、お言葉を預かっております」。4年前の赤坂御所での出来事である▲令和への改元後、初の天皇誕生日の記者会見に出席した。被爆地への思いを問うと、「今後とも広島、長崎に心を寄せていきたい」。言い足りぬと感じられたのだろう。言付かった「お言葉」は、被爆者への伝言だった。「幼少の頃より原爆の日には黙とうをささげてきました」▲きょう、64歳の誕生日。皇居で一般参賀を受ける。正月2日は能登半島地震の被災者を思い取りやめた。恒例だった万歳三唱は今回自粛を求めている。その思いはきっと能登の地に届こう▲ことしの誕生日会見でも、令和の皇室のキーワードを改めて示されていた。「国民の中に入り、少しでも寄り添うことを目指す」。各所に足を運ばれ、膝を折り、人々と対話されるはず▲来月は能登半島地震2カ月となり、東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から13年の節目も迎える。残念ながら「3・11」は記憶の風化が進む。あの頃、世の中は「被災者に寄り添う」との誓いにあふれた。私たちもいま一度思い返そう。

(2024年2月23日朝刊掲載)

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