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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第1部 呉基地の今 <6> 拠点化

任務 地域の協力が基盤

見えない内部 不安の声も

 「呉地方隊として真にあるべき姿への変革の時を迎えている」。海上自衛隊の二川達也・呉地方総監は昨夏、就任の訓示で国際情勢の変化や頻発する自然災害に触れながら隊員たちに語りかけた。

 呉地方隊は1954年、自衛隊の発足に伴い創設された。和歌山県から宮崎県までの1府12県に加え、沖ノ鳥島(東京)を含む広範な海域を警備区に持つ。

 その中枢を担う呉基地(呉市)は、海自部隊の拡大に伴い、横須賀基地(神奈川県)から機能を移設するなどし拠点性を高めてきた。さらに基地内では今、装備の増強が進んでいる。

 政府は、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を2022年12月に閣議決定した。23年度を防衛力抜本的強化「元年」と位置付け、同年度から防衛費を大幅に増額。「抑止力の向上」を目的に他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の整備などを進め、影響は呉基地にも及ぶ。

「主は後方支援」

 護衛艦かがは戦闘機の搭載を想定した「空母化」へ改修が進み、国内の過半数が配備されている潜水艦には反撃能力を備えるため長射程ミサイルの装備を計画。南西諸島などに戦車や弾薬を運ぶための新たな部隊「自衛隊海上輸送群」を25年3月にも設置する予定だ。海外派遣も活動の幅と場所は広がっている。

 呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授(65)は「瀬戸内の呉基地は後方支援部隊として人員管理や食料の補給、艦艇の修理などが主な任務。装備を強化しても基地としての基本的な役割は変わらないだろう」と語る。

 一方で、基地に入港する艦艇の監視を続けている市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」の呉世話人の西岡由紀夫さん(68)は「基地内で何が起きているのか分からない。かがの空母化など外から見ていると不安が募る。政府の方針は市民だけでなく、隊員の命を危機にさらすものだ」と話した。

開かれた存在に

 呉基地に勤める自衛官は約6千人。地域と密接に関係している。呉地方総監経験者の池太郎さん(63)は「積み込む食材の準備や装備の維持補修など街の協力があって任務に就ける。安全保障など隊員が現場で見聞きしたことを直接説明することは難しいが、普段からの関係づくりでしか信頼は生まれない」と語る。

 今年7月1日に創設70年となる呉地方隊。取材を通じて広報対応が以前に比べて厳しくなっている側面も感じた。防衛力の強化が進められている今こそ、開かれた存在として地域に向き合う姿勢が求められる。  =第1部おわり(この連載は仁科裕成が担当しました)

(2024年2月26日朝刊掲載)

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