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「他者のため」行動で示す 広島学院中・高で備品作り半世紀 修道士のロサドさん

誰もが神様の子 尊敬し合っていたい

 学びやの裏山にある平屋の木工室で、半世紀以上にわたり黙々と備品を手作りし続けてきた修道士がいる。広島学院中・高(広島市西区)の用務員を務めるスペイン出身のマヌエル・ロサドさん(84)。無私の精神で生徒たちのために尽くすその姿を、同僚教員や卒業生は「学院の宝」とたたえる。(山田祐)

 木製のハンガーを詰め込んだ段ボール箱が、木工室に所狭しと並ぶ。毎春、新たな仲間となる中学生約190人に制服用として贈るため、ロサドさんが一つ一つ丁寧に仕上げたものだ。生徒は高校を卒業するまでの6年間、ロッカーで愛用し続けるという。

 このほかにも職員室のカウンターテーブル、生徒用のげた箱、図書室の本棚など、校内の至る所にロサドさんの「手作り」が収まる。

 何でも作りますよ。買うと高いから。たとえば全校朝礼で校長先生が立つ演台。既製品なら100万円を超えるものもある。でも堅い木や板を買って、ぼくが作れば20万円で済むんです。お金を節約できれば、学校のために何か役立てられるでしょう。

 半世紀以上を過ごした学びやはロサドさんにとって「家」そのもの。丹精を込めた備品の数々には、生徒たちが大切にしてくれるように、との願いを込めている。

 丈夫で長持ちするように、いつだって一生懸命作ります。生徒たちは先生や両親の言う事を聞いて、一つ一つを大切に使ってほしい。

 「目立たないけれど大切な仕事」と、褒めてくれる人がいます。大きな喜びです。勤続10年、20年と節目に賞状をもらったのも良い思い出です。

 スペインで生まれ育ったロサドさんは19歳でイエズス会に入り、修道士の道を選んだ。27歳で広島学院に着任。今年で57年になる。

 その暮らしぶりは質素そのもの。早朝から夕方まで、大半は木工作業か学校の草刈りに費やす。持参する昼食はフランスパンとチーズ、時々リンゴかバナナが加わる。ぜいたくを好まない地道な生き方にも思いは込められている。

 学校の目指す人間像である「Men for others(他者のために生きる人間)」の精神です。

 伝え方は二つあります。一つは言葉で伝える。でもヨーロッパでは「言葉は風に吹く」と言います。風のように消え去ってしまうことの例えです。

 もう一つは行動で示す。より強く心を引きつけることができます。

 今は生徒と直接話す機会が多くはありません。だから自分の持ち場で頑張ることで、他者を思う大切さが伝われば良いと思っています。

 その精神は、生徒や同僚教員に着実に根付いている。36年間にわたり同校で社会科教員を務めた竹本親三さん(67)は、生徒時代にロサドさんと出会った。「厳しい面もあったけれど、温かかった」と振り返る。「神に一生をささげるその姿を見ると、6年間の在学中に誰もが自然と尊敬の念を抱く」と強調する。

 長年勤めてきたロサドさんにとって特に忘れられない思い出になったのが、2019年11月のローマ教皇フランシスコの来日だ。生徒のために尽くしてきたことへの感謝を込めた特別な計らいにより、上智大(東京)でイエズス会神父たちを集めて営まれたミサに出席し、教皇と面会することができたのだ。

 「頑張って」と言われた。温かい、立派な人。生きる限りキリスト教を信じ続けなければいけないと教えてくれた。

 今はバスや電車に乗ればみんながスマートフォンやタブレット(端末)に目を落としている。スマホに支配されているようです。

 スマホ1台あれば自分で何でもできちゃうから、「神様いらない」と考えてしまうそうです。海外でも一緒で、神様への信仰が薄くなって困っているんです。

 でも、人は1人で生きているのではない。みんなで平和をつくっていかなければいけない。

 私たちは誰もが神様の子。だからみんな兄弟だね。尊敬し合っていたい。そう思っていれば、きっとみんな優しくなれる。

(2024年2月26日朝刊掲載)

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