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パレスチナ難民とUNRWA 広島市出身の職員 小田佳世さん寄稿 ガザ停戦求め声を

資金拠出停止 590万人の危機

 イスラエル軍はイスラム組織ハマスとの戦闘でパレスチナ自治区ガザへの苛烈な攻撃を続け、死者は分かっているだけで3万人に達した。1月には日本などがパレスチナ難民の「命綱」である国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を一時停止。支援が滞り、おびただしい人々が飢餓に直面している。しかもイスラエル軍は、追い詰められた避難民が密集する最南部の都市ラファにも地上侵攻を進める方針という。

 この残忍極まる事態を広島から直視し、考え、緊急に声にすべきこととは何だろう。UNRWAシリア事務所に勤務する広島市出身の小田佳世さんに、首都ダマスカスから寄稿してもらった。(金崎由美)

 UNRWAの名を、昨年10月7日のパレスチナ自治区ガザでの戦闘開始以降に初めて聞いた人も多いかもしれない。パレスチナ難民を対象にした医療や教育など多様な支援を、現地団体などを介さず直接的に行っている。国連の中でも特徴ある機関だ。

 ヨルダン、レバノン、シリア、ガザ、東エルサレムを含むヨルダン川西岸で活動している。私はシリア事務所で渉外のほか緊急支援、教育、医療保健、社会保障、難民キャンプの環境改善などの企画立案と実施管理を担当している。

 ガザでの戦闘開始以降、私を取り巻く環境は大きく変わった。

 昨年8月まで勤務していたヨルダン川西岸事務所も、現在のシリア事務所も、同僚の99%がパレスチナ人でその多くが難民の当事者。一緒に仕事をしてきた同僚も多数、ガザに住む。毎日増える同胞の死者数や、悲惨な映像を目の当たりにし、皆、心が張り裂けそうな日々を送っている。

 ガザ事務所のスタッフも、1日時点で160人が命を落としている。私の上司は昨年11月からガザに入り緊急支援に当たっている。食糧や水が不足し、A型肝炎や下痢、呼吸器疾患など感染症は深刻だ。最南部の人口25万人都市ラファには150万人が避難している。トイレは約500人に一つ。シャワーは約3千人に一つ。2千人収容できるUNRWA施設に2万8千人が身を寄せている。

 ガザの同僚の多くはできる業務を続けながら、「死ぬ時は一緒」と子連れで出勤する人が多いと聞く。地獄を経験している相手にかける言葉が見つからず、同僚のメッセージアプリのアイコンがオンラインになるたび生きていると確認し、「あなたとガザの人々を思っている」と送信することしかできない。とても悔しい。

 一方、ヨルダン川西岸でもパレスチナ人殺害を伴う暴力行為やイスラエル治安部隊による捜索作戦が続く。昨年10月以降、子ども102人を含む404人が亡くなった。

 そんな中、UNRWA職員12人が昨年10月7日の攻撃に関与した疑いがあるとして、1月から日本を含む16カ国が資金拠出を一時停止した。ガザにとどまらず、UNRWAの全ての活動地で人道支援の継続が困難になっている。

 まだ疑惑の段階だが、真相究明と、事実ならば再発防止が当然大事だ。だが、現場で働く者としては、それらが完結するまで目の前で苦しむ590万人の難民を見殺しにし続けることなど、到底できない。

 シリアではパレスチナ難民43万8千人の9割が最低生活基準(食費、家賃や医療費などを含め1日2・15ドル)以下の生活を送る。UNRWAが活動休止になれば、シリアだけで42万人が危機に直面し、小中学校の生徒5万5千人や職業訓練校に通う1700人が学ぶ場を失う。赤ちゃん1万人が必要最低限の予防接種を受けられなくなる。

 厳しい生活の中でも心を込めて私を迎えてくれている人々のため、できる全てのことをしたい。今、ガザ出身の同僚手作りのマクルーベ(パレスチナなどで親しまれているアラブ風炊き込みご飯)をかみしめながら、この文章を書いている。

 パレスチナ問題と聞くと、日本から遠く、難しいと思われるかもしれない。ただ、70年以上も解決策がなかった問題に世界が注目し、心を砕いている今だからこそ、この地域が求める平和と安定、解決への糸口が見いだせるかもしれない。

 そのために、まずは停戦が必要だ。ガザが崩壊してしまう前に、UNRWAの活動が途絶える前に、どうか停戦を求めて声を上げてほしい。どうかガザの人たちを、ヨルダン川西岸やシリア、ヨルダン、レバノンで暮らすパレスチナ難民を、見捨てないでください。

おだ・かよ
 1985年呉市生まれ。広島女学院中高、カナダ・マクマスター大卒。米ミドルベリー国際大学院モントレー校で修士号(不拡散・テロ研究)。認定NPO法人「難民を助ける会」(アフリカ・スーダン勤務)、軍縮会議日本政府代表部(スイス)を経て2021年からUNRWA。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)
 1948年のイスラエル建国直後の第1次中東戦争によるパレスチナ難民とその子孫を援助するため設立された国連機関。医療や食料などを支援し小中学校も運営。約590万人が支援対象。活動資金は各国政府や国際機関の任意拠出に依存し、市民の寄付もhttps://www.unrwa.org/japan で募っている。

(2024年3月4日朝刊掲載)

動画は以下から

UNRWAが支援するスープキッチン(炊き出し)が数千人を支えている(ハンユニス、1月24日)

11月29日の「パレスチナ人民連帯国際デー」

UNRWAは僕たちの二つ目の家になった(ラファ、2月24日)

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