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緊急連載 日鉄呉跡地防衛拠点構想 <下> 「空白」解消・活性化に期待

弾薬庫想定 不安も根強く

 「とうとう来たかという感じ。光明が差した」。防衛省による日本製鉄(日鉄、東京)瀬戸内製鉄所呉地区跡地(呉市)での複合防衛拠点構想が明らかになったことを受け、広島経済同友会呉支部の大之木小兵衛支部長(59)は率直な感想を述べた。

 日鉄が呉地区の閉鎖方針を公表した2020年2月以降、跡地活用の具体案が示されない状況が続き、呉市の経済界ではある懸念が広がっていた。「敷地が約130ヘクタールと大き過ぎることに加え、土壌汚染の心配もある。用途の幅が狭く、買い手が付かないのではないかとの声が多かった」と、大之木支部長は明かす。

 製鉄所は呉海軍工廠(こうしょう)跡地に整備された。同工廠で戦前・戦中時に何が使われていたか詳細は不明だ。跡地は海に面しており、潮風の影響を受ける半導体関連などの工場の誘致は難しいとの認識もあったという。

 市の人口減少が進む中、今回の防衛拠点構想について呉の事業者には前向きな受け止めが目立つ。呉飲食組合の柴村清組合長(62)は「空白期間が長引くのが一番つらい。自衛隊関連の人が増えて、街が潤ってほしい」と期待する。

 跡地は海上自衛隊呉基地に近く、同構想では防衛装備品の維持や製造に関連し、民間企業の誘致も見据える。林芳正官房長官が「地元経済の活性化に貢献できる」とし、木原稔防衛相は早期の一括購入を視野に入れていると説明する。

 構想について、呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授(65)は国が国内防衛産業の生産基盤の強化を進めているとし、装備品の製造・修繕に加え、技術者が集まる研究開発拠点となることを見通す。「民間企業も大きく関わる話だ」と指摘する。

 一方で、同省が防衛拠点の機能の一つとして、弾薬庫を想定していることが明らかになった。弾薬の保管場所となれば、攻撃対象ともなりうるだけに市民の不安も少なくない。

 雇用の規模も含め具体的な内容は明らかになっておらず、同構想を選択肢の一つとする広島県と市は今後、同省の説明を聞くとする。構想に反対する市民団体のメンバーは「地元住民への説明はないのか。構想を判断する上で安全を守れるのかどうかという視点は不可欠だ」とくぎを刺す。

(2024年3月7日朝刊掲載)

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