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社説・コラム

社説 [地域の視点から] 日鉄呉跡地の防衛省提案 地域振興の最善手探らねば

 防衛省が、呉市の日本製鉄跡地を「複合防衛拠点」として整備する方針を打ち出した。日鉄や広島県、呉市と協議を始めたい考えという。

 昨年9月末に事実上閉鎖した後も、利活用策は具体化していなかった。詳細は明らかになっていないとはいえ、130ヘクタールもの跡地が放置される可能性が薄らいだことは、地元にとっては前進だろう。

 ただ、産業振興の観点で、防衛省案がベストの選択肢といえるのか。県や市が「まず話を聞く」と冷静な対応なのもうなずける。利活用策は国と日鉄だけの問題ではない。地域にとって最善手を探る努力が必要だ。

 国は跡地を海上自衛隊呉基地に近接する複合防衛拠点と位置付ける。装備品などの維持整備・製造基盤、ヘリポートなどの防災拠点と部隊の活動基盤、岸壁などの港湾、の3機能を整備する計画だ。

 巨大な浮桟橋よりも、岸壁の方が艦船管理に融通が利くのは疑いない。ただ、他の用途として浮上しているのは弾薬庫であり、爆発の危険性を考えれば、民間企業の誘致も見込めるというのはいささか無理がないか。自衛隊にとって、日鉄跡地が必要不可欠なものとも思えない。

 湯崎英彦知事は、「未来に希望が持てる利活用を検討する」と言う。米半導体大手が東広島市で最先端製品を生産し、三原市には国内最大級のデータセンター計画が進む。防衛施設より最先端産業の方が人材確保や将来を考えても確かにメリットは大きい。

 ただ、跡地解体には10年かかると見込まれる。海軍工廠(こうしょう)の配管などを引き継いだ排水設備や土壌に汚染はないのだろうか。そんな土地に企業の進出を働きかけるには早くから準備が必要だったはずだ。

 日鉄呉と同時期に高炉休止した川崎市は、JFEスチールと連携して跡地を水素エネルギー供給拠点に再生させる計画を既に進める。県と市は日鉄呉跡地を産業用地にする調査を2024年度から始める予定だが、川崎市に比べ、いかにも遅い。

 そもそも国が防衛費を5年間で約43兆円に大幅増額する中での動きであることを認識せねばならない。円安で割高になった海外製の装備品購入を控え、為替の影響を受けない国内設備の拡張をなし崩しに進めることは許されまい。

 航空自衛隊新田原基地(宮崎県新富町)では隣接地を購入し、基地拡張が計画されている。地対空誘導弾パトリオット3の機動展開訓練や災害時の支援物資集積場として使うことが想定されている。

 日鉄呉跡地の取得計画もそうした一環だろうが、有事の際に攻撃対象の危険が高まることが住民にどこまで認識されているかは不透明だ。

 呉では護衛艦かがの事実上の空母化が進み、米軍岩国基地との連携も視野に入る。市の将来が今まで以上に基地に依存するものになっていいのか。日鉄跡地の利活用策にはそうした議論も欠かせない。

(2024年3月7日朝刊掲載)

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