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社説・コラム

天風録 『君たちはどう生きるか』

 生と死に思いが及ぶ、この日を選んだような吉報である。東日本大震災から13年のきのう、宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」が米アカデミー賞の長編アニメーション賞に輝いた―と知らせが届いた▲アオサギに導かれ、幻の世界に迷い込む少年の冒険物語で英語の題は「少年とアオサギ」。邦題の趣はない。宣伝ポスターも、こちらではアオサギの大写し、あちらでは少年である。はて、何が、どう受けたのだろう▲宮崎さんは作品にどんな思いを込めたのか。主題歌を任せた米津玄師(けんし)さんに語ったと聞く。〈この世は生きるに値する〉。生きづらさを抱え、暗闇をさまよう子どもたち。その足元を宮崎映画が照らしている▲ただ、地球儀を回せば暗然たる思いに沈む。ウクライナやパレスチナをはじめ、〈生〉が問答無用の暴力にさらされている。米国では、不都合な情報に目や耳をふさぎ、敵視する風潮ものさばり返る。日本だって対岸の火事を決め込んでいられない▲アオサギは、青鷺と書く。「鳥」の上にある「路」は、神の降りる道らしい(白川静著「字通」)。人生の道について、人々に問いかけている役回りなのかもしれない。どう、生きますか。

(2024年3月12日朝刊掲載)

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