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連載・特集

マーシャルからの問い ビキニ被災70年 <3> 核兵器禁止条約

救済条項「米の尻拭い」

 「世代を超えた苦痛とそれに対する闘いを考えると、批准は道徳的な義務だ」「核の傘の下で暮らす中、批准は『同盟関係』に緊張をもたらす」。中部太平洋マーシャル諸島の首都マジュロの大学で2月末にあった「マーシャル諸島は核兵器禁止条約を批准すべきか?」をテーマにしたディベート大会。賛否3人ずつの白熱した議論に、約50人が聞き入った。

「現実は難しい」

 マーシャル諸島は米国の核実験が繰り返され、住民の健康や土地に被害を受けてきた経緯がある。他方で現在は米国に安全保障を委ね、政府予算の半分程度に相当する経済支援も毎年受ける。大会に参加した大学生トリスティン・ホリウチさん(22)は「世界から核兵器がなくなるのを望むが、現実を見ると難しい判断」と振り返った。

 ハイネ大統領の見解は明確だ。「今すぐには批准できない」。3月4日の中国新聞などのインタビューで述べた。禁止条約の条項で全加盟国に核被害者の援助や環境の修復を求める点を疑問視。加盟した場合に、被害国のマーシャル諸島が「米国の尻拭い」をさせられるのを懸念しているという。

 被害者援助を巡っては、財源となる国際的な信託基金の設立に向け、資金の提供元や配分方法の議論が今夏にも始まる見通しだ。仕組み次第で、マーシャル諸島に利益がもたらされる可能性があり、政府の批准判断に影響を及ぼしそうだ。

 一方、ディベート大会で学生が心配していた、批准した場合の米国の反応について、大統領はインタビューで考慮しない考えも明らかにした。

高まらない関心

 もともと対米関係は強気だ。ビキニ環礁での核実験「ブラボー」から70年となった1日にマジュロであった式典の演説では、経済支援などに関する協定の承認が米議会で遅れていると批判。「これまで米国は揺るぎない『同盟国』だったが、それを当然と考えるべきではない」と言い放った後、招待した米国の政府代表と笑顔で握手した。

 ただ、対外的な問題以前に、足元で条約への関心が高まっていないと感じさせる出来事があった。先月下旬から今月上旬にかけて日本原水協の代表団が面会した国会議員や首長たちから、「条約はよく知らない」との声が相次いだのだ。

 ビキニ環礁選出のジェス・ギャスパー・ジュニア国会議員(40)も「少しは分かるが…」と申し訳なさそうに語った。5歳から米国で暮らしていたが、ビキニの人たちが直面する経済問題の力になろうと昨年帰国して立候補し、初当選した。

 米国の核実験で故郷を追われた住民や子孫たちの中には生活苦で、食料の確保すらままならない人もいる。「核兵器は明らかに世界のためにならない。私たちはその一例だ」と話すギャスパー氏も今は国民を飢えさせないための仕事が忙しい。「条文をメールしてくれないか。読み込んで理解する必要がある」と記者に頼んだ。(下高充生)

(2024年3月15日朝刊掲載)

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