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連載・特集

マーシャルからの問い ビキニ被災70年 <5> 明星大の竹峰教授に聞く

記録 どう残すか課題に

 明星大(東京)の竹峰誠一郎教授は中部太平洋マーシャル諸島を2月25日~3月14日に訪れ、核被害や暮らしぶりについて住民から聞き取った。1998年から続ける調査で19回目。米国によるビキニ環礁での核実験「ブラボー」で日本のマグロ漁船「第五福竜丸」などが被曝(ひばく)して70年を経た今の課題と、日本をはじめ各国の向き合い方を聞いた。(下高充生)

  ―核実験を体験した住民が減っています。継承の現状をどう見ますか。
 コミュニティー内で、「あのおじいさんはこんな体験をした」という知識は受け継がれている。ただ、国内の他地域はどうか、国際社会とどうつながっているのかは十分に理解されておらず、住民たちは概略的な知識を学ぶ必要がある。

 口承文化の中で、記録としてどう残すかも課題だ。日本では国際協力というと財政支援などのイメージがあるかもしれないが、こうした課題に向き合うのも貢献になる。

「毒がまかれた」

  ―米公文書で死の灰(放射性降下物)が降ったとされながら、米国が被害地と認めていないアイルック環礁の様子は。
 アイルックのような地方は、今でも外からの情報が入りにくい。住民にとって被害の認識は、日本語に直訳すると「大きな爆弾の実験で毒がまかれた」。何によって自分たちが苦しんできたのか正確に理解されていない。それだけ放置されてきたということだ。住民たちは聞き取りにすごく協力的で、「声を聞いてほしい」との思いを感じた。

  ―核兵器禁止条約は締約国に被害者援助を義務付けていますが、ハイネ大統領はその条項のために「米国の尻拭い」をさせられるのを懸念し、すぐの批准に否定的です。
 加害国の責任をどう考えているのかという問いかけだと思う。マーシャル諸島政府はこれまで米国の責任を追及してきたので、(責任が明確でないと)つじつまが合わなくなる。

 国際社会、特に条約を支持する人たちはこうした立場を認識し、対応する必要がある。また、米国からの補償という既存の仕組みがある中、条約の被害者援助の仕組みはまだ具体化していないため、現実的な判断をしたともいえる。

遺族や学生訪問

  ―日本からマーシャルの核被害にどう向き合っていくべきでしょうか。
 3月1日に合わせ、(ブラボー実験の時に近海で操業していた)高知県の漁船乗組員の遺族や学生たちが訪問したのは目立っていた。日本から一定の関心が向けられていると示した。

 一過性に終わらせないのが重要だ。マーシャル諸島の核実験の影響は「ビキニの問題」「第五福竜丸の問題」となりがちだ。これらは極めて重要だが、放射性降下物が降ったと主張するグアムの人々もいる。視野を広げないと拾えない訴えがある。マーシャル諸島で核問題を訴える人々を日本から支え、国際社会に声を届けることが求められる。=おわり

たけみね・せいいちろう
 1977年、兵庫県伊丹市生まれ。2012年、早稲田大大学院アジア太平洋研究科博士後期課程修了。三重大研究員などを経て、20年4月から現職。専門は平和学・国際社会学。

(2024年3月17日朝刊掲載)

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