核軍縮会合を前に 期待や注目点を聞く
24年3月16日
政府が核軍縮・不拡散をテーマに、国連安保理議長国として国連本部で開く閣僚級会合。被爆者と核兵器廃絶を訴える若者に、会合への期待や注目点、岸田文雄政権への注文を聞いた。
事態打開へ本気の姿勢を
ロシアのプーチン大統領がまたも核兵器の使用をちらつかせ、核戦争が危ぶまれる中での会合だ。いかに核兵器をなくすか。被爆国としてなすべきは、保有国とその手だてを考えることだ。
政府が重視する兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)は、核軍拡の歯止めにはなる。ただこの30年、交渉すら始まっていない。岸田さんの描く核兵器廃絶への現実的なアプローチなのだろうが、核使用の危機が迫る中ではやや悠長ではないか。
岸田さんは常々、核兵器禁止条約を「核なき世界」への「出口」と言うが、どうもふに落ちない。禁止条約は核兵器廃絶の「入り口」だ。核兵器を使わせない状況にどう保有国を導くか。米国をはじめとする保有国を「一緒に条約に加わろう」と説得してほしい。
禁止条約に加盟する安保理非常任理事国のエクアドルやマルタが日本に参加を求めるかどうかも注目している。すでに70カ国が条約を批准した。世界の大きな潮流になっている現実を日本政府は直視してほしい。
核軍縮の関連行事を開いたり、新しい会議体をつくったりするだけでは駄目。外交は事態打開の交渉こそが重要だ。かつて外務省は包括的核実験禁止条約(CTBT)発効を目指し各国に外交官を派遣した。そうした本気の取り組みを望みたい。(樋口浩二)
たなか・てるみ 旧満州(中国東北部)出身。旧長崎中1年の時、爆心地から3.2キロの自宅で被爆、祖父ら肉親5人を失った。東北大工学部助教授を退職後、日本被団協入り。事務局長を経て2017年から現職。埼玉県新座市在住。
核抑止 保有国と議論期待
米国やロシアなど核兵器を持つ「五大国」が常任理事国を務める国連安保理で核軍縮・不拡散を議題に据えた政府に期待している。2022年にあった核兵器禁止条約の第1回締約国会議で私はスピーチした。参加してみて、非保有国だけの議論では核兵器が減らない現実を痛感した。
核兵器の被害者の視点から議論を始めてほしい。核兵器が使われた場合の結末を伝えるのは、被爆の実態を知る日本の役割だ。被爆者を会合に招き、発言してもらってはどうか。
岸田首相が核兵器のない世界の「出口」として重要と言う禁止条約にも触れるべきだ。保有国に「一緒に入ろう」と呼びかけてほしい。安保理には禁止条約に加わる国が複数ある。橋渡しをするまたとない機会だ。
昨年の第2回締約国会議は核抑止からの脱却を探った。核兵器の存在が「安全保障上の懸念」であると加盟国は共有した。核抑止に頼る日本がその弊害と向き合うのは当然で、今回の会合でも言及してほしい。
岸田首相は「保有国を動かさなければ現実は変わらない」と繰り返す。五大国の閣僚がそろうかどうか、中でも米国とロシアが少しでも歩み寄れるのかに注目している。誰もが核兵器の被害者になり得る。一市民として議論の行方と成果をしっかり見たい。(宮野史康)
おくの・かこ
広島市中区出身。2019年に気候変動への対策を訴える「Fridays For Future広島」を設立。20年からは中区の平和記念公園での碑巡り案内にも取り組んでいる。東京都杉並区在住。
(2024年3月16日朝刊掲載)
日本被団協代表委員 田中熙巳さん(91)
事態打開へ本気の姿勢を
ロシアのプーチン大統領がまたも核兵器の使用をちらつかせ、核戦争が危ぶまれる中での会合だ。いかに核兵器をなくすか。被爆国としてなすべきは、保有国とその手だてを考えることだ。
政府が重視する兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)は、核軍拡の歯止めにはなる。ただこの30年、交渉すら始まっていない。岸田さんの描く核兵器廃絶への現実的なアプローチなのだろうが、核使用の危機が迫る中ではやや悠長ではないか。
岸田さんは常々、核兵器禁止条約を「核なき世界」への「出口」と言うが、どうもふに落ちない。禁止条約は核兵器廃絶の「入り口」だ。核兵器を使わせない状況にどう保有国を導くか。米国をはじめとする保有国を「一緒に条約に加わろう」と説得してほしい。
禁止条約に加盟する安保理非常任理事国のエクアドルやマルタが日本に参加を求めるかどうかも注目している。すでに70カ国が条約を批准した。世界の大きな潮流になっている現実を日本政府は直視してほしい。
核軍縮の関連行事を開いたり、新しい会議体をつくったりするだけでは駄目。外交は事態打開の交渉こそが重要だ。かつて外務省は包括的核実験禁止条約(CTBT)発効を目指し各国に外交官を派遣した。そうした本気の取り組みを望みたい。(樋口浩二)
たなか・てるみ 旧満州(中国東北部)出身。旧長崎中1年の時、爆心地から3.2キロの自宅で被爆、祖父ら肉親5人を失った。東北大工学部助教授を退職後、日本被団協入り。事務局長を経て2017年から現職。埼玉県新座市在住。
Fridays For Future広島代表 奥野華子さん(22)
核抑止 保有国と議論期待
米国やロシアなど核兵器を持つ「五大国」が常任理事国を務める国連安保理で核軍縮・不拡散を議題に据えた政府に期待している。2022年にあった核兵器禁止条約の第1回締約国会議で私はスピーチした。参加してみて、非保有国だけの議論では核兵器が減らない現実を痛感した。
核兵器の被害者の視点から議論を始めてほしい。核兵器が使われた場合の結末を伝えるのは、被爆の実態を知る日本の役割だ。被爆者を会合に招き、発言してもらってはどうか。
岸田首相が核兵器のない世界の「出口」として重要と言う禁止条約にも触れるべきだ。保有国に「一緒に入ろう」と呼びかけてほしい。安保理には禁止条約に加わる国が複数ある。橋渡しをするまたとない機会だ。
昨年の第2回締約国会議は核抑止からの脱却を探った。核兵器の存在が「安全保障上の懸念」であると加盟国は共有した。核抑止に頼る日本がその弊害と向き合うのは当然で、今回の会合でも言及してほしい。
岸田首相は「保有国を動かさなければ現実は変わらない」と繰り返す。五大国の閣僚がそろうかどうか、中でも米国とロシアが少しでも歩み寄れるのかに注目している。誰もが核兵器の被害者になり得る。一市民として議論の行方と成果をしっかり見たい。(宮野史康)
おくの・かこ
広島市中区出身。2019年に気候変動への対策を訴える「Fridays For Future広島」を設立。20年からは中区の平和記念公園での碑巡り案内にも取り組んでいる。東京都杉並区在住。
(2024年3月16日朝刊掲載)