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被爆の痕跡 自分ごととして 日本画家・山内若菜さん 広島で25日まで個展

「無駄な命ない」歴史見つめながら描く

 東京電力福島第1原発事故で放射能汚染された牧場を取材した作品で知られる日本画家、山内若菜さん(神奈川県藤沢市)。近年は広島にも通い、被爆の痕跡を描いてきた。被爆建物の旧日本銀行広島支店(広島市中区)で開催中の個展では、制作中の大作「讃歌(さんか) 樹木」をはじめ約50点を展示。筆に込めた思いを語ってもらった。(木原由維)

  ≪2016年、原爆の図丸木美術館(埼玉県)で開催した個展「牧場」が話題を呼んだ≫

 丸木位里、俊夫妻の作品と一緒に展示してもらう機会に恵まれ、「原爆の図」を模写した。見えない放射能の恐怖を可視化する表現を学び、「いまの広島を見たい」と思ってすぐ訪れた。街中にある彫刻や建物などが戦前戦後の広島を無言で訴えかけ、平和記念公園を歩けばさまざまな国籍や思想の人々が祈りをささげる。町全体が大切なメッセージを発信するアート作品だ、と感じた。

 ≪広島の被爆樹木に着想した高さ3メートル、幅9メートルの「讃歌 樹木」。21年に制作を始め、今も筆を加え続ける≫

 和紙の上に絵の具を塗り重ねている。被爆者の痛みを想像しながら画面を引っかき、広島で拾った葉を埋め込んだ。しわや亀裂を施すことで、ぼろぼろに傷つけられた人、動物、街を浮かび上がらせた。昨年広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)の関連工事で、被爆樹木が誤って伐採されたと聞き、切り株を加筆した。

 ≪平和への祈りを込めた「刻(とき)の川 揺(ゆれる)」(21年)。旧陸軍被服支廠(ししょう)(広島市南区)や、大久野島(竹原市)の毒ガス貯蔵庫跡など「加害」の歴史に着目した作品もある≫

 広島に通い始めて、初めて陸軍の拠点だったことを知った。歴史から目を背けることなく、惨禍を自分ごととして捉えてもらいたいとの思いで制作している。

 「刻の川 揺」の少女は、両手で唇を覆い口をつぐんでいる。長崎の被爆者が家族から言われた「うちは誰も死んどらんけん、人に言うたらだめよ」との言葉に触発された。「無駄な命はない」との思いを出発点に、福島、広島、長崎を描いてきた。それぞれの土地の扉を開き、つなぐ展示にしたい。

    ◇

 25日まで。無料。午前10時~午後5時。25日は午後3時まで。24日午後1時半から、「讃歌 樹木」の素描に参加者が加筆し、ひとつの作品に仕上げるワークショップがある。定員20人。希望者は事前にQRコードなどから申し込む。問い合わせはメールmnakao@hiroshima‐u.ac.jp

(2024年3月21日朝刊掲載)

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