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原爆資料館の菊楽さん退職 展示企画34回 共感を大切に

 1990年から原爆資料館(広島市中区)に勤め、34回にわたって資料展を企画してきた嘱託職員の菊楽忍さん(65)=南区=が3月末で定年退職する。原爆ドーム(中区)の関係資料を数多く掘り起こし、多彩な視点で広島の被爆や戦前・戦後の歴史を伝えてきた。今後も市民団体で被爆建物の発信などを続ける。

 菊楽さんは広島大大学院で建築史を学び、90年から同館の嘱託職員に。今も思い出深いのが92年のゴルバチョフ・元ソ連大統領の訪問で、妻ライサさんの見学に随行した。「髪が抜け落ちた子どもの写真を見て涙を浮かべていました。共感が広がる展示を設ける大切さを痛感しました」

 雑多な業務をこなす日々だったが99年、原爆関連の本を公開する情報資料室に配属。2006年、原爆の傷痕を描いた作品「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」などで知られる漫画家こうの史代さんの複製原画を紹介する資料展を企画した。その展示が反響を呼び、その後も年2回程度のペースで同室の資料展を企画するようになった。

 被爆建物の旧大正屋呉服店(現レストハウス)、被爆詩人の峠三吉、漫画「はだしのゲン」…。携わった展示は多岐にわたる。また、広島県物産陳列館(現原爆ドーム)を設計した建築家ヤン・レツルについて母国チェコの遺族と交流するなどして長年研究。資料展「原爆ドーム100年の記憶」(15年)などに生かされた。

 「勤め始めた時は、中学1年で被爆した川本義隆さんが館長でした。今は被爆者がぐんと減り、資料がますます大切になっている」。後輩の資料収集や展示に期待する。自身も結成時から関わる「旧被服支廠(ししょう)の保全を願う懇談会」の活動や被爆者の手記の掘り起こしを続ける。(水川恭輔)

(2024年3月25日朝刊掲載)

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