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原爆投下を謝罪したい 米巡礼団、広島で被爆者と面会 被爆地 対応に不一致も

 原爆投下という自国の過ちを謝罪してゆるしを乞い、「和解」への一歩としたい―。カトリック系の平和団体「パックス・クリスティ」米国支部の巡礼団が今月、広島市を訪れて被爆者と面会した。ともすれば意外に映る米国市民からの働きかけに、どんな背景と思いがあるのか。どう受け止めるべきだろうか。(小林可奈)

 カトリック幟町教会(中区)の世界平和記念聖堂で10日、対話集会が開かれた。巡礼団の11人は被爆者6団体の代表者と対面。ローズマリー・ペースさん(70)は「朝鮮半島出身者を含む被爆者たちに心からの謝罪を伝える」と米国の原爆投下責任を明確にした上で、「和解に向けた対話を始めたい」と表明した。

 巡礼団は対話集会に先立って平和記念公園(同)を訪れ、原爆資料館では「あの日」の惨状を訴える展示と向き合った。市民との交流行事にも臨み、長崎へ移動した。

 11人は全米各地に住み、自国の核保有への反対を長年訴えてきた年配者たちだ。

 アン・サレントロップさん(72)=カンザス州カンザスシティー=は、小児科の看護師として勤めながら、地元にある核兵器部品製造施設の門前で抗議運動を続けてきた。「謝罪とは、過ちを認め改心すること。でも言葉だけでは駄目で、同じ過ちを繰り返さないための行動を伴うことが必要。それが核兵器廃絶運動です」

 対話集会では、日米が核兵器禁止条約に加わることや、「米国政府による公式謝罪」を求める共同宣言を発表した。広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(82)は「核大国である米国でこのような動きが生まれていることに、私たちは感激している」と語った。

 だが政府レベルでは、現職の米大統領として2016年に初めてオバマ氏、昨年はバイデン氏が広島を訪れたが原爆使用を悔いる言葉は語っていない。かたや被爆地の側でも今回、立場の違いが浮き彫りになった。

 広島の「被爆者7団体」のうち、松井一実市長が会長を務める市原爆被爆者協議会は集会参加を見送った。協議会事務局は「被爆者援護事業を掲げる協議会の設立目的から外れる。市としても米国に謝罪を求めてきていない」と説明する。

 昨年は、平和記念公園と米パールハーバー国立記念公園(ハワイ州)が姉妹公園協定を締結した。市は「未来志向で平和と和解の架け橋の役割を果たす」とし、幹部が米国の原爆投下責任の議論を「棚上げ」すると市議会で答弁している。

 対話集会後の記者会見で、広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(80)は「謝罪を求めることに関しては見解を異にするということだ」と認め、「加害の罪を認め合うことが真の和解、過ちを繰り返さないことにつながると思っている」と言葉をつないだ。

和解とは 思考と議論促される

 巡礼団のアン・サレントロップさんの地元で軍需企業が運営する施設は、核物質を伴わない核弾頭部品の大部分を製造、供給している。北大西洋条約機構(NATO)配備の戦術核B61や、戦略原子力潜水艦に搭載するW88核弾頭などの部品を入れ替えたりする「寿命延長」に欠かせない。米核戦力の近代化を支える現場の一つである。

 施設の閉鎖を訴えるサレントロップさんは、敷地に一歩足を踏み入れたため不法侵入の疑いで逮捕されたことも。あつい信仰心で、祈りと「非暴力の市民的不服従」を貫いているという。広島原爆の日には公園の池に灯籠を浮かべる。謝罪と反省、行動、犠牲者の追悼はつながっている。

 市民レベルでの米国からの「謝罪」は1995年などにもあった。「戦争終結に原爆は必要だった」とする米国内世論は以前ほど強くないが、今なお風当たりはあるはずだ。もし無念の死者に声があれば、私費を持ち出し来日した巡礼団にどんな声をかけただろう。

 原爆投下責任をあえて追及せず、反省や謝罪を求めない姿勢は、米国を含めた核保有国首脳の被爆地訪問や、市民交流の「敷居」を確かに下げている。

 一方、米国は核兵器禁止条約を敵視し、核戦力の維持強化に余念がないのが現実だ。議会予算局は昨年の報告書で、仮に国防総省とエネルギー省の予算要求通りに執行すれば2023~32年度の10年間のコストが計7560億ドル(114兆円)に上ると見積もる。

 過去の原爆使用も、現在と将来の核抑止の保持も肯定する国との和解とは―。思考と議論を促されているのではないだろうか。(金崎由美)

(2024年3月25日朝刊掲載)

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