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社説・コラム

社説 モスクワ乱射テロ 国際協調に立ち返るべきだ

 ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射テロは130人以上が命を落とす大惨事となった。突然の凶行に襲われた恐怖と無念は想像を絶する。国際社会全体で犠牲者に哀悼の意を表するのは当然のことだ。

 ロシアは理不尽なウクライナへの侵攻を2年以上続け、非難を浴びる。プーチン大統領自身も民主的とは思えないプロセスで5選を果たし、強権的な手法が懸念される。しかしどんな国であっても罪のない人を巻き込んだ卑劣なテロは絶対に許されない。

 このテロはなぜ起きたか。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、襲撃の様子を撮影したとする動画も公開した。ロシア当局も実行犯4人を拘束したと発表している。何が正しいかも含めて全体像は分かっていないが、ISに関連する組織の犯行だとすると由々しき問題だ。ISと周辺の活動に対する監視の目が、揺らぎがちだったとも思えるからだ。

 2014年に「建国」を宣言してイラクや内戦が続くシリアの国土を一時は広範囲に支配したが、次第に支配地域を失い、戦闘員も激減した。それでも分派の組織が一定の勢力を維持している。シリア内戦でISを攻撃し、チェチェンのイスラム武装勢力と長く対立するプーチン政権を一貫して敵視し、これまでもテロを繰り返してきた経緯がある。さらに言えば、ウクライナの戦争の混乱に乗じて武器や資金を入手しやすくなったとの分析もある。

 注目されるのは敵対関係にある米国が予兆を察知し、2週間前にはモスクワでコンサートを含む大規模な集会を標的にしたテロ計画があると警告したことだ。しかしプーチン氏は欧米の脅迫だと一蹴し、テロを防げなかった。親ウクライナ派の反政府活動を警戒する一方で、イスラム過激派の動向把握で後手に回ったとの見方もできよう。

 ロシアの姿勢が何より問われる。プーチン氏は黒幕としてウクライナの存在をほのめかした。責任を転嫁して国内の結束を強めようとする意図が透ける。侵攻の正当化の理由にするのは許されない。

 くしくも大統領演説で口にした「国際テロという共通の敵と戦う全ての国々と協力する用意がある」という発言は重い。どこまで本心かは不明だが、テロに向き合うなら国際社会との協調しかない。

 そのためにもロシアはウクライナでの軍事作戦を無条件で停止し、米国をはじめ西側との対話を始めるべきだ。世界の分断と混迷が深まるほど、テロのリスクは増大するという認識を共有したい。

 同じことはパレスチナ自治区ガザについても言えよう。イスラエルはまず攻撃を中止し、中東における報復の連鎖を断ち切らねばならない。

 日本もひとごとではない。今回、巻き込まれた邦人はいないとみられるが、15年には日本人2人がIS側に殺害されている。誰がいつ、どこで惨事に遭うか分からないのが国際テロの恐ろしさだ。日本政府として事態を静観するだけでいいとは思えない。

(2024年3月25日朝刊掲載)

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