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連載・特集

緑地帯 若狭邦男 私と大江コレクション④

 再読する機会がそれほどあるわけではないが、新聞記事のスクラップも私の大江コレクションの一部である。大学の図書館で大江健三郎氏に関連する各紙の記事をチェック、その新聞を生協で買い、切り取り、ノートに貼るという一連の作業は、若き日のルーティンだった。

 1965年以降、学生・院生時代に集中的に実践し、90年代半ばまで続けた。今回、ほこりにまみれたノートを書斎から取り出し、時系列で読んだのは感慨深い作業だった。

 60年代後半の記事をたどると、大江氏が沖縄への関心を深めていくさまがよく分かる。文芸誌「群像」の67年1~7月号に連載され、毎号心待ちにして読んだ小説「万延元年のフットボール」関連の記事も多くスクラップしている。

 大江氏の核問題への継続的な関心もうかがえる。74年2月分の切り抜きで、朝日新聞の「日記から」と題した記事が目に留まった。この「緑地帯」に似たスタイルの連載コラム。2月12日付の回には「政府が、広島・長崎の被爆体験をいいながら、その悲惨には眼をそむけ、核の威力の『実益』に食指を動かしている事実は、すでにかくれもない」と書いている。

 大江氏は、こうしたコラムや短編を書き連ねてテーマを掘り下げ、長編に仕上げることが多い。76年刊の長編小説「ピンチランナー調書」(新潮社)は、原発など核による地球の破滅を拒む親子2人が、型破りの躍動を見せる喜劇。今読んでも新鮮だ。(古書コレクター=広島市)

(2024年3月29日朝刊掲載)

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